大晦日はすでに元日? 大晦日におせち料理を食べる地域がある民俗学的な理由とは【眠れなくなるほど面白い 図解 民俗学の話】

習わしの中に残る昔の風習 ② 大晦日とおせち料理

1日の始まりを日没とする考え方

北海道や東北地方の一部などでは、大晦日におせち料理を食べる風習があります。なぜ、大晦日のうちにおせち料理を食べてしまうのか? これは、「1日の始まりがいつか」と関係があります。つまり、「いつまでが大晦日で、いつからが元日か」と関係があるということです。

現代の日本では、1日の始まりは午前0時です。そして、この区切り方は、古代の日本が中国の暦制を導入して以来、一貫して用いられてきました。ただ、同時に、1日の始まりを別のところに置く考え方も広く存在してきました。

江戸時代、子の刻(午前0時)で日付が変わる公式の暦制とは別に、民間には「1日の始まりを日の出とする」考え方が存在しました。そして、さらにもう1つ、「1日の始まりを日没とする」つまり「日没から日没までを1日とする」考え方も存在していました。

「1日の始まりを日没とする」考え方は、中国の暦制が導入される以前に、日本社会で共有されていた時間認識で、それが暦制の輸入後も民間に残存し、近代に入ってもとくに地方では、その考え方が保たれていたのです。この考え方に従うと、12月31日の日没を過ぎればもう元日なので、「元日のおせち料理」ということになります。つまり、「大晦日の夜におせち料理」は、むしろ民俗学的に根拠のある慣習といえます。

「1日の始まり」の3つの考え方

① 1日の始まりは午前0時

午前0時で日付が変わる公式の暦制。中国の暦制を導入して以来、用いられてきた1日の区切り方。

② 1日の始まりは日の出

日の出から次の日の出までを1日とする考え方。江戸時代でも、民間では明六つ(夜明け。午前5〜7時頃)を1日の始まりとする考え方が主流だった。

③ 1日の始まりは日没

日没から次の日没までを1日とする考え方。大晦日の晩におせち料理を食べる慣習は、その時点ですでに元日が始まっているという古層の意識にもとづく。

『今昔物語集』(平安時代末期)などの古典文献では、現代語でいう「昨夜」のことを「今夜」と記している事例が多く見られる。また、日本との直接的関係はないものの、中東発祥のユダヤ教、キリスト教、イスラム教の暦法など、世界には「1日の始まりを日没とする」事例が複数存在する。

【出典】『眠れなくなるほど面白い 図解 民俗学の話』監修:島村恭則

【監修者紹介】
島村恭則(しまむら・たかのり)
民俗学者。関西学院大学社会学部長・教授。1967(昭和42)年、東京都生まれ。筑波大学大学院博士課程歴史・人類学研究科単位取得退学。文学博士(筑波大学)。国立歴史民俗博物館教官、韓国・翰林大学校客員教授、東京大学客員教授などを歴任。日本各地で民俗学調査を行うとともに、韓国・中国での調査・研究も行う。
近年は、世界民俗学史をふまえた民俗学理論の研究、とくに民俗学を国際的・学際的な「ヴァナキュラー文化研究」として再編成する議論を展開している。
著書に『みんなの民俗学 ヴァナキュラーってなんだ?』(平凡社)、『民俗学を生きる ヴァナキュラー研究への道』(晃洋書房)、『これからの時代を生き抜くための民俗学入門』(辰巳出版)、『昔話の民俗学入門 民間伝承の秘密を読み解く』(創元社)、編著に『現代民俗学入門 身近な風習の秘密を解き明かす』(創元社)などがある。

【書誌情報】
『眠れなくなるほど面白い 図解 民俗学の話』
監修:島村恭則


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