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ヨットや帆船が逆風でも進めるのってどうしてなんだろう?【すごい物理の話】

Text:望月修

風の抵抗を受けた進み方と揚力を使う進み方

ヨットは帆で風の力を得て推進します。風の力をキャッチするには、風から受ける抵抗力を使うやり方と揚力を使うやり方があります。抵抗力は風の中に置かれた物体がその形に依存して受ける力です。その力の大きさは、風から物体を見たときの面積と風速の2乗に比例します。また、物体の形状によって抵抗係数のCD値(空気抵抗係数)が与えられています。この値は後方からくる風を帆で受けて、その力を推進力にする帆船で使われます。

ディンギーヨット(スループリグ)には、図2のように揚力(風の方向に対して直角方向の力)を利用する三角の帆(ジブセール)、三角型の主になる帆(メインセール)が付いています。また、抵抗力を利用する帆(スピンネーカー)がついているものもあります。抗力は帆の前後で流れが剥離することによる圧力差に起因します。メインセールは航空機の翼と同じように凸にカーブした形をしています。気流を凸表面に沿ってカーブさせることで、向心力(物体を曲線軌道に進めるための力)となる負圧を帆凸面側に発生させます。これが流れの方向に対して直角方向に作用する力の揚力(=負圧×帆面積)となるわけです。

それは「静水圧」がかかっているためです。静水圧というのは水の重さのこと。水位が上がれば上がるほど、その位置にかかる静水圧は深さに比例して大きくなります。水面からの深さh=10㎝では100Pa(パスカル(=kgf/㎡))、つまり100kgfの重さが水底の1㎡の面積にかかっています。50㎝の深さでは1㎡当たり500kgf、1mの深さでは1㎡当たり1000kgfです。

気流はメインセールの表面に常に沿っているように、風への向きを常に調節する必要があります。メインセールに流れる気流が剥はがれないように、運動エネルギーを注入する役割がジブセールです。これらの帆を使うと、風上側へヨットを進めることができます。

帆に横風が吹きつけると、たとえ翼型のメインセールでも流れが剥離し、横風の方向に抗力を受けてヨットが傾き、転覆する恐れがあります。転覆防止にはヨットの底に重りとなるバラスト・キールを取り付けます。キールは対称翼型の板なのでヨットの前進方向に対して抵抗は小さいものです。船体が傾くと剥離して抵抗を発生させると同時に、横転と反対方向のモーメントを発生させて横転しにくくする役割も持っています。そのためにセンターボードともいうのです。

ディンギーヨットのしくみ【眠れなくなるほど面白い 図解 すごい物理の話】

出典:『眠れなくなるほど面白い 図解 すごい物理の話』著/望月修

【書誌情報】
『眠れなくなるほど面白い 図解 すごい物理の話』
著:望月修

物理学は、物質の本質と物の理(ことわり)を追究する学問です。文明発展の根底には物理学の考えが息づいています。私たちの生活の周辺を見渡しただけでも、明かりが部屋を照らし、移動するために電車のモーターが稼働し、スマートフォンの基板には半導体が使われ、私たちが過ごす家やビルも台風や地震にも倒れないように設計されています。これらすべてのことが物理学によって見出された法則に従って成り立ち、物理学は工学をはじめ、生命科学、生物学、情報科学といった、さまざまな分野と連携しています。……料理、キッチン、トイレ、通勤電車、自動車、飛行機、ロケット、スポーツ、建築物、地震、火山噴火、温暖化、自然、宇宙まで、生活に活かされているもの、また人類と科学技術の進歩に直結するような「物理」を取り上げて、わかりやすく図解で紹介。興味深い、役立つ物理の話が満載の一冊。あらゆる物事の原理やしくみが基本から応用(実用)まで理解できます!

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