【国宝解剖】運慶30代の衝撃作「毘沙門天立像」に宿る魂とは【眠れなくなるほど面白い 図解 国宝の話】

2匹の邪鬼を踏みつけ、眼光鋭く一点凝視!

台頭する東国武士団を守る北方守護神 ── 毘沙門天立像

 運慶作「毘沙門天立像」(国宝)は、願成就院(静岡県伊豆の国市)大御堂に本尊阿弥陀如来坐像、不動明王立像・矜羯羅童子・制吒迦童子とともに祀られている。いずれも文治2年(1186年)造像という胎内造像銘札により運慶30代半ばの作と実証されており、日本彫刻史上、「運慶様式=鎌倉様式」の確立を示す仏像として国宝に指定された。

 さて、2匹の邪鬼を踏みつけて、眼光鋭く、玉眼入りの目で一点を凝視し、やや体を左に傾けて立つ毘沙門天立像。その動的な姿勢には、従来の仏像には見られない躍動感、緊迫感が感じられる。台頭しつつある東国武士団の勢いを体現する守護神として祀られているように思う。それは、のちに鎌倉幕府初代執権となる北条時政(1138〜1215年)が、源頼朝(1147〜99年)の奥州征討戦の勝利を祈願して文治5年(1189年)に願成就院を建立(『願成就院略縁起』)したことを想起すれば、容易にその意図を理解できる。

 幕府成立(1185年)直後の東国武士団の力と勢い、そして意気込みが筋骨隆々、若々しい肉体美を誇らし気にアピールする仏像をつくり上げる運慶の美学と一致し、共鳴し、新しい人間味のある仏像文化を生み出したような気がする。その気迫がびりびりと伝わってくる仏像だ。

 実はこのごつい鎧を身にまとい、恐そうな表情をしている毘沙門天立像は、願成就院建立の願主、北条時政をモデルにしたそうで、なるほど、さもあらん、と首肯したくもなる。

 いずれにしろ、平安時代の平穏な雰囲気を醸し出す仏像とは異なる、鎌倉風の仏像が登場する時代へ移るのである。

北条時政=鎌倉幕府初代将軍源頼朝の正室北条政子の実父。頼朝死後、幕府の実権を握り、御家人共和政治の慣習を打破し、北条専制=執権政治の先例を開く。


毘沙門天立像

慶派(平安時代末期から江戸時代にかけての仏師の一派)の様式を強烈に表現した運慶の傑作。時代を反映し、鎌倉武士の理想とする力強さを彷彿させる写実的、躍動的な造作が最大の特徴

願成就院 毘沙門天立像

平成25年(2013年)に国宝指定 / 運慶作 / 静岡県伊豆国市願成就院所蔵

 運慶が30 代半ばで彫像した毘沙門天立像は、「割わり矧はぎ造づくり」という大き目の材木を割って接合する技法(木寄せ)が用いられた。この技法は木材を合理的に利用でき、像の安定感にも役立つなど彫刻技術の革新性が指摘される。また、願成就院での造仏は毘沙門天立像以外に、阿弥陀如来坐像、不動明王立像と脇侍の制吒迦童子立像・矜羯羅童子立像も同時に造仏している。この合計5体は運慶作として平成25年(2013年)同時に国宝に指定された。毘沙門天立像は木造彩色で像高148.2cm。

 ちなみに阿弥陀如来坐像の像高142.0cm、不動明王137.2cm、矜羯羅童子74.4cm、制.迦童子83.5cmで木造彩色。いずれも北条時政の依頼により造立された。


にゃん太:あの毘沙門天像は迫力がすごいね。
わん爺:まぁ、何せ東国武士の理想の姿だというから、武士はあんなふうに猛々しい見た目に憧れたのかもしれん。そういえば「運慶が東国武士との関わりの中で造像した初例であり、その後に展開する毘沙門天像の形にも大きな影響を与えた」と皿井舞さんという方が記しておるの(『もっと知りたい国宝』より)。
にゃん太:ふ〜ん。それから毘沙門天さんが踏んづけているへんてこりんな生き物はいったい何?
わん爺:あれは、仏教で邪鬼と呼ぶ悪い鬼だ。仏道に背く悪心の象徴だから、自国天、増長天、広目天、多聞天すなわち毘沙門天の四天王はあの鬼たちを踏みつけるんだな。にゃん太も稚気が邪鬼に変われば四天王に踏みつけられるぞ!


【出典】『眠れなくなるほど面白い 図解 国宝の話』著:鈴木 旭

【書誌情報】
『眠れなくなるほど面白い 図解 国宝の話』
著:鈴木 旭


【Amazonで購入する】

国宝は「重要文化財のうち世界文化の見地からも価値の高いもの、類いない国民の宝」と定義され、現在1144件(2025年)が認定されている。
普賢菩薩像から伊藤若冲までの「絵画」、弥勒菩薩半跏思惟像など「彫刻」、日本刀などの「工芸品」、銅鐸・金印・古墳出土品などの「考古資料」、中尊寺金色堂など「建造物」、「書跡・典籍」、「古文書」、「歴史資料」の8分野がある。
本書では、歴史的背景や、史実にもとづきながら、見所、詳細な情報を掲げ、丁寧に解説。
知っておきたい、興味深い国宝を中心に、写真ではわからない驚きや不思議・謎に踏み込んで紹介する。

この記事のCategory

オススメ記事

【縄文のミステリー】なぜ土偶は「奇怪な姿」なのか?国宝の女神たちに込められた命がけの願い【眠れなくなるほど面白い 図解 国宝の話】

「国宝の密度が日本一」!? 豪華絢爛中も外も国宝だらけ『平等院鳳凰堂』の歴史【眠れなくなるほど面白い 図解 国宝の話】

最澄と空海の交流を知る唯一の史料 、「久隔帖」と「風信帖」に込められた想いとは【眠れなくなるほど面白い 図解 国宝の話】

解読不能の48文字が刻まれる国宝「時代を写す鏡」銅鏡とは!?【眠れなくなるほど面白い 図解 国宝の話】

菩薩は56億年後の未来に現れる!? スフィンクスやモナリザと並ぶ三大微笑「弥勒菩薩半跏思惟像」【眠れなくなるほど面白い 図解 国宝の話】

聖徳太子の妃が描いた理想郷? 太子逝去の悲しみを「天寿国」の刺繍に昇華させた理由と【眠れなくなるほど面白い 図解 国宝の話】

屋根がない不思議な絵「吹抜け屋台」で描かれた恋愛模様、国宝「源氏物語絵巻」を図解!【眠れなくなるほど面白い 図解 国宝の話】

「内臓」入りの仏像!? 1000年前の”五臓六腑”が明かす「生身のお釈迦様」の正体【眠れなくなるほど面白い 図解 国宝の話】

求人情報

インフォテキストが入ります