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「日本男子バレーの新しい冒険が始まった!」元日本代表河野裕輔がベネズエラ戦を分析【東京オリンピック】

ベネズエラ戦分析/日本男子バレーの新しい冒険が始まった

【河野裕輔のエール!第2回】

元日本代表、元JTサンダーズの河野裕輔さんにコラムを執筆いただいています。第2回は、東京オリンピック初戦のベネズエラ戦についてレポート! どこが直前のVNL(ネーションズリーグ)から進化したのか。詳細にお伝えいたします。


◆ついに開いたオリンピックの扉
2021年7月24日。日本男子バレーのオリンピックが開幕した。前回の勝利はバルセロナオリンピック。中垣内祐一監督の現役時代の話である。その中垣内監督が率いる日本男子チームの冒険が始まった。結果は3-0のストレート勝ち。29年ぶりの勝利を掴みオリンピックの扉を大きく開いた。そしてそこには中垣内監督就任からの集大成があった。

◆VNLを踏まえたディフェンスシステムの徹底
VNLの時もそうでしたが、しっかりと「サーブで殴って」リードブロックとディグによるトータルディフェンスを機能させること。これが現代バレーの生命線であるが、VNLの時よりもはるかにブラッシュアップされたトータルディフェンスが展開されていた。

一番のポイントは「ブロックがスプレッドしていない」ことである。VNLでは展開が悪くなるとサイドブロックが開きすぎてしまいMB(ミドルブロッカー)の移動距離が延びる=ブロックの間が開きやすくなりそこに打たれて失点するというパターンが見られたがしっかりと修正。サイドとMBの距離が短い状態でのブロックができていた。

結果ブロックのライン側を抜かせる意図を持ったディグシフトを展開。ベネズエラはMBの打数が多かったが、焦ることなくやるべきディフェンスシステムを機能させるという意思統一がなされていたように思う。

そして素晴らしいのは、サイドのブロックのワンタッチが効果的に取れていた事。そうするとワンタッチを嫌がったベネズエラのサイドスパイカーがクロスに打ってくるスパイクに対してブロックが決まるという理想的なディフェンスが構築できていた。

◆いろいろな形のサーブ戦術
今の日本男子はサーブのバリエーションが豊富なことが武器の一つになっており、ビッグサーバーの西田有志、石川祐希以外にもしっかりと強いサーブでコースを狙える高橋藍、ジャンプフローターで戦術的に崩しに行く山内晶大、ハイブリッドサーブの小野寺太志、そして流れを作った関田誠大のジャンプサーブ。スタメンだけでも、これだけの世界に通用するバリエーションがある。もちろん控えの選手も、しっかりとサーブで殴れる選手ばかり。相手のイヤな所に打つことにより、「相手に気持ちよく攻撃させない」戦術がここから始まる。

1セット目には関田のサーブから山内の3連続ブロック、計6連続得点を演出した。相手のイヤな所を的確に突いていく関田のサーブは本当に効果的であった。相手にとっては西田、石川に崩されることはある程度想定内になるが、この2人以外に崩されると想定していない分相手にとって誤算となる可能性が高い。

◆安定感を増したレセプション(サーブレシーブ)からの攻撃
VNLでの敗戦は、ほぼサーブで崩されて日本の思い通りの展開にならないことが続いたことが敗因だったが、ここも大幅なレベルアップが図られていた。ベネズエラの強いサーブに対しても、大きく崩れることなくシンクロ攻撃につなげていた。いったいなぜこの短期間で、これだけ改善されたのか。本当に不思議なほど、日本のサーブレシーブが素晴らしく改善されていた。その結果レセプションアタックにおいてコート中央付近のスロット(スロット3~Aのあたり)の攻撃本数が多くなり、サイドの攻撃に対する相手のブロックはほぼ1枚か1枚半というのが多かったように見えた。

現代バレーにおいてはレセプションがAorBパス(Aパス:セッターが動かずにトスアップできるサーブレシーブ、Bパス:セッターが数歩動かされるサーブレシーブ)の場合、攻撃枚数は4枚となり3人のブロッカーではマークしきれないことから、いかにAorBパスを返球するかが勝負のカギとなることが多い。

◆1試合を通したゲームマネジメント
オリンピックに出てくるチームで、簡単に勝てるところは皆無である。そのステージで勝つために、1試合を通したゲームマネジメントが必要となる。それが前述したディフェンスの意思統一であり、「しょうがない失点への割り切り」である。チームとしてやるべき事をやった結果の失点であれば、それは「しょうがない失点」となる。

例えばしっかりサーブで攻めたが、相手のレセプションが返ったため素晴らしい攻撃にやられてしまった。この場合、次のレセプションアタックをしっかり決める事に切り替えることが肝要である。こういった「しょうがない失点」を引きずらないで、今やらなければならないプレーに集中していく。

序盤で多少サーブミスが続いても、「レセプションアタック、つまりサイドアウトが取れている限り負けない」と決して守りに入らず最後までサーブで攻め続けたことも非常に重要なゲームマネジメントであり、ファインプレーの一つであった。

◆総括して
オリンピック開幕戦としては「やりたいことが十分にできた」ゲームだったのではないか。レセプションアタックが思うように取れているため、思い切ってサーブで殴ることができる状態にあった。ブレイクを取るのはなかなか難しいが確実にレセプションアタックを取ることで「負けにくいバレー」を展開していた。

個人的に余り精神論を論ずるのは好きではないが、「負けにくいバレー」で我慢比べに持ち込み相手が雑になったところで、ブロックやトランジションアタックでブレイクしていく「我慢のバレー」が実を結んだ。

中垣内監督、石川主将の言う「まず予選突破」その可能性は決して少なくないと感じたし、「その先」も見えるのではないか?と個人的には期待をしている。

29年ぶりの勝利を掴みオリンピックの扉を開けた日本男子バレー。彼らの冒険は始まったばかりである。この冒険が終わった時に彼らが何を掴んでいるのか。非常に楽しみになる一戦であった。

河野 裕輔 プロフィール

河野 裕輔(かわの ゆうすけ)

1975年8月1日生まれ ポジション OP.OH 古河4ますらおクラブ-古河2中-足利工大附高(現足利大附高)-中央大学-JTサンダーズ(現JTサンダーズ広島) 現在社業の傍ら、V.TVにて解説者、オーカバレーボールスクール埼玉校にてコーチ業を勉強中。

文責:河野裕輔

写真:FIVB

情報提供『バレーボールマガジン』
バレーボール観戦の感動や面白さ、そして選手の思いを一人でも多くのファンに伝えたい――。

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