「日本はオシャレ大国」は本当?小刻みなレイヤードに隠された”肉体矯正”の秘密

高村是州先生への特別インタビュー第5回。今回は、世界から見た日本のファッションの強みと、私たちが無意識に行っている「着こなしの技術」についてひもときます。

――高村先生は、本書制作の際にも「日本人は世界有数のおしゃれ大国」とおっしゃっていましたが、どのあたりが優れているのでしょうか?

高村先生:日本人は「小刻みなレイヤード(重ね着)」を作ることに非常に長けています。

たとえば、シャツの袖を少しめくって段差をつくったり、シャツの裾をパンツの中に入れずにアウトにしたりしますよね。そうすることで、腕が細く見えたり、股下や腰の位置があいまいになって足が長く見えたりするんです。

体型を美しく見せる「小刻みなレイヤード」と「肉体矯正効果」

高村先生:これを私は「肉体矯正効果」と呼んでいます。本来持っている自分の体型をより美しく見せるために、シワやレイヤーで「小刻みなリズム感」をつくりだすテクニックを、日本人は感覚的に使いこなしているんです。

――服のシワもリズム感やデザインになるのですか?

高村先生:そうなんです。服の着こなしにおいて「リズム感」というのは「線」で生まれるものです。

ドレープをはじめ、フレア、フリル、ギャザー、プリーツなどシワ(線)は古来からデザインとして活用されてきました。

たとえば、袖をまくって横の線を作るだけでなく、上手な人はストライプ柄やプリーツなどで縦の線も組み合わせます。線の視覚効果を利用することで、自分をより魅力的に見せているわけです。

1990年代からはじまったスタイルリミックス。2008年〜2009年秋冬にはテンションの違うアイテムを組み合わせるようになった。

――ファッションアプリなどで一般の方の着こなしを見ていると、本当にレベルが高い人がいますよね。

高村先生: ええ、本当にオシャレな人が増えました。
たとえばフィッシャーマンズベスト(釣り用のベスト)を日常着にする等アイテムの選択や組み合わせも個性豊かですし、それを着こなす際には単調なシルエットにならないよう、ベストにいくつもついているポケットの凹凸を利用して、視覚的な「小刻みなリズム」を生み出したりしています。また、合わせるシャツの柄やシワも活用して「線」と「リズム感」を巧みに取り入れているのです。


――リズム(情報)を集中させる部分を作るのですね。

高村先生: そうなんです。上半身にあえてポケットなどの要素をもってくるレイヤードをするなら、ボトムスにウォレットチェーンはつけないとか。もし下半身にも装飾の要素があったら、全体がうるさくなりすぎてしまわないように上半身でリズムをつくった分、下半身はしっかりと引き算をすると言う感じです。

さらに、シャツの丈を短めにして裾という「線」を上にすることで上半身をコンパクトに見せ、足が長く見えるような工夫もできます。
街を歩いていて「ちょっとおしゃれな人だな」と目を引く理由は、こうした理論に基づいた服の「肉体矯正効果」を感覚的に上手に使っているからなんですね。

体型と気候が生んだ重ね着術

――なぜ、日本人はその技術に長けているのでしょうか?

高村先生:もともとは欧米人との体型の違いから磨き上げたテクニックでした。

ファッションは西洋文化をベースに発展してきたため、私たちよりも手脚が長く、顔の小さい体格を基準とした美意識が多く含まれています。そこで、体型の差を補うためにさまざまな工夫が生まれました。その中でも大きな役割を果たしてきたのが、レイヤードでした。

それが今や非常に高いレベルに達しており、海外の学生やクリエイターから見ても驚くほどおしゃれに見えるんです。

また、日本の気候も影響しています。日本は春夏秋冬の変化が大きく、さらに湿度も高いため、衣服を脱ぎ着しながら体温調節を行う機会が非常に多い国です。そうした環境の中で、私たちは自然とレイヤード(重ね着)を取り入れてきました。その気候のグラデーションの数だけ、着こなしにはリズム感や表現の奥行きが生まれているのだと思います。

トライアンドエラーが導く、自分をいかした着こなし

――昔のルールにとらわれず、自由に着こなしているのもポイントですね。

高村先生:昔は「シャツはパンツの中に入れるもの」と教わりましたが、「出したほうがバランスよく見えるならやってみよう」と、新しい着こなしをどんどん生み出しています。

日本人は、外から入ってきたものを自分たち流にアレンジする「解体・再構築」が非常に得意な国民性をもっていると思います。イタリアのパスタと明太子を組み合わせて、本場のイタリア人も楽しむ「明太子パスタ」を作ってしまうのと同じですね(笑)。

――その「肉体矯正効果」や「着こなしのバランス」は、どうすれば身につきますか?

高村先生:「トライアンドエラー」をたくさんすることです。

鏡の前で「どっちがいいかな」と試行錯誤するうちに、自分を美しく見せる小刻みなリズムやバランスが感覚的にも、論理的にもインプットされていきます。

そうして自分のスタイルが確立できれば、年を重ねても自分に似合うものを長く愛し続けることができます。結果的に、それがいちばん地球に優しい、サステナブルなファッションの楽しみ方にもつながっていくと思いますよ。

(第6回へ続く)

【書誌情報】
『アイテム 歴史 スタイル 専門用語 デザイン すべてがイラストでわかる ファッション事典』
著者:高村是州


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オシャレが好きな人やクリエイターなど、服にかかわるすべての人に手にとってほしい一冊です。

著者は文化学園大学教授の高村是州氏。長年に渡ってファッションを研究し、教鞭をとってきた中で培われたすべてを詰め込んでくれました。

各スタイルのルーツや歴史的背景をひも解きます。現代のトレンドは代表ブランドのアイテム名とともに紹介し、カルチャーとの結びつきを細部まで再現。日本のトレンド史も充実しています。

また、「ファッションは4つに分類される」といった学問的視点から、流行をつくる業界の仕組みまで、ファッションの構造を多角的に解説。
言葉ではわかりにくい服のパーツ(袖や襟など)や靴の分類、素材に至るまで、すべてイラストで網羅しています。

オシャレの基本から専門知識まで、ひと目でわかる決定版です!

 

【著者プロフィール】
高村是州(たかむら・ぜしゅう)

ファッションイラストレーター、ファッションスタイル評論家。文化学園大学 教授(大学院アドバンストファッションデザイン専修、服装学部ファッションクリエイション学科)。
長年に渡ってファッションを研究し教鞭をとってきた中で培われたすべてを本書に詰め込んでいます。 著書に『ザ・ストリートスタイル』『ファッションスタイル・クロニクル』『ファッションデザインテクニック』(以上グラフィック社)、『ファッション・ライフのはじめ方』(岩波書店)など多数。

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