メンズ服に革命を起こした天才! カール・ラガーフェルドに40kgの減量を決意させた「エディ・スリマン」の衝撃

高村是州先生(文化学園大学教授)への特別インタビュー。今回は、女性服の常識を変えたココ・シャネルのように、男性服の世界に革命を起こしたある天才デザイナーのお話です。

――ファッションの歴史を振り返ると、女性の服の歴史に比べてメンズファッションの話題が少ないように感じます。

高村先生:実は、メンズファッションがコレクションの中で存在感を持ち始めたのは、1970年代にプレタポルテが活発になってからですが、決定的になったのは2000年代以降、つまり21世紀に入ってからなんです。歴史(history)は、「his story:男性の(戦いの)物語」に由来すると語られることがありますが、ファッションにおいては女性が自由を獲得していく「her story:女性の物語」でした。

しかし2000年代初頭、ついにメンズファッションの世界に革命を起こす天才があらわれました。それが「エディ・スリマン」です。

2000年代、メンズ服の常識を覆した「革命」の正体

――女性服をコルセットから解放したのがココ・シャネルなら、メンズ服の革命児が彼なのですね。何がすごかったのでしょうか?

高村先生:彼は「少年性」と「ロック」をキーワードに、当時のメンズファッションの常識を完全に覆しました。

当時は、オーバーサイズの服が主流だったのですが、エディ・スリマンは圧倒的なカッティングセンスで「極端に細身(スキニー)のスーツスタイル」を大流行させたのです。

――90年代にも細いスーツはあった気がしますが、なぜ彼が「革命」と言われたのですか?

高村先生:かつて90年代にグッチのトム・フォードが、細身のスーツを流行らせましたが、それは60年代のスタイルの再現と言う意味合いが強いものでした。 一方、エディ・スリマンの服が求めたのは、男性性を誇示するマッチョな肉体ではなく、より繊細な雰囲気をまとった身体感覚だったのです。

男性の肉体から不要な男性性を削ぎ落とし、少年のような中性的な美しさをスーツで表現し、ジェンダーの枠を超えて衣服の概念を拡張させました。

彼の登場以降、「ザ・リバティーンズ」など多くのロックバンドがこの細身のスーツを着るようになりました。エレファントカシマシの宮本浩次さんのスタイルもそうした文脈です。


エディの服は美しく、38という小さなサイズもあることから、歌手のマドンナや俳優のニコール・キッドマンら女性も着用していた。

巨匠ラガーフェルドに40kgの減量を決意させたもの

――全く新しい服を発明したわけではないのに、世界を変えたのですね。

高村先生:そうですね。例えばイヴ・サンローランも彼と同じように時代を作りましたが、サンローランは常に「新しいもの」をゼロから生み出す、超クリエイティブな天才でした。

対してエディ・スリマンは、新しいものを作るのではなく、「アーカイブを最高にかっこよく見せる」ことがめちゃくちゃ得意な天才なんです。既存のスーツを極限まで洗練させることで、男性の美意識そのものを変えてしまったのです。

――シャネルのデザイナーだったカール・ラガーフェルドが、エディの服を着るために40kgもダイエットしたという逸話は本当ですか?

高村先生:はい。当時ふくよかだったラガーフェルドは、エディ・スリマンの細身のスーツを着るために過酷なダイエットをして40kgも痩せたそうです。

ラガーフェルドはシャネルのデザイナーですから、かつてココ・シャネルが女性のファッションで成し遂げた「自由と概念の拡張」という革命の精神を深く理解していました。だからこそ、「メンズファッションで、シャネルと同じ革命をやってくれたやつが現れた!」と、エディの精神性に強く共感したのかもしれません。 (第7回へ続く)

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著者:高村是州


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【著者プロフィール】
高村是州(たかむら・ぜしゅう)

ファッションイラストレーター、ファッションスタイル評論家。文化学園大学 教授(大学院アドバンストファッションデザイン専修、服装学部ファッションクリエイション学科)。
長年に渡ってファッションを研究し教鞭をとってきた中で培われたすべてを本書に詰め込んでいます。 著書に『ザ・ストリートスタイル』『ファッションスタイル・クロニクル』『ファッションデザインテクニック』(以上グラフィック社)、『ファッション・ライフのはじめ方』(岩波書店)など多数。

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