CM用の「嘘の味」vs洋食店の「本物の牛舌シチュー」。大女優の頑なな心を溶かした「デミグラスソース」の圧倒的な差【漫画 ザ・シェフ】

テレビCMやSNSで目にする、シズル感たっぷりの美味しそうな料理。

しかし、その裏側にあるのは「見栄え」を最優先したフードスタイリングや、何度も撮り直すために代用されたレプリカであることも少なくありません。

グルメ漫画の金字塔『ザ・シェフ』第21話「真剣勝負①」では、そうした「見せるための料理(フェイク)」と「食べるための料理(本物)」の決定的な差が、一つのドラマとして描かれています。

CMの演出用フードと、皿の上に宿る「魂」の境界線

物語の起点となるのは、食品会社が社運をかけた「レトルト・ビーフシチュー」のCM撮影。

スランプに苦しむ人気女優・蒲レイ子がスプーンを口に運ぶものの、その表情は死んでおり、箸の持ち方すら「おいしそうに見えない」とスポンサーの社長から酷評されてしまいます。

「あの表情ではわが社の製品は売れん」

どれだけ演技で「おいしい」と繕おうとしても、過密スケジュールによるイライラや、義務感で口にするレトルトフードでは、人間の本能的な喜びを表現することはできません。

味がすべてではない。味沢匠が演出した「環境というスパイス」

天才シェフ・味沢匠は、そんな彼女の心を「料理の力」で救い出します。

味沢が彼女を誘ったのは、高級ホテルでもきらびやかな会員制レストランでもなく、街の片隅、モーテルの向かいにある静かな洋食店でした。

しかし、その店内の窓からは、言葉を失うほどに美しい夜景が広がっていたのです。

そこで提供されたのが、デミグラスソースが艶やかに輝く「牛舌(タン)シチュー」でした。

「この店は牛舌シチューが美味しいんですよ」

ただでさえ柔らかく煮込まれた極上の牛タンは、じっくりと時間をかけて仕込まれたソースをまとい、口の中でとろけるような至福をもたらします。

さらに、窓からの美しい夜景という最高のスパイスが加わることで、蒲レイ子のストレスは一気に洗い流されていきました。

料理は胃袋だけでなく、胃袋を通じて「心」を満たすもの

「アハハ、本当に久しぶりに楽しかった」

食事を終えたレイ子の顔には、演技ではない、本物の輝くような笑顔が浮かんでいました。

グルメとしての評価(味の良し悪し)も重要ですが、料理が持つ真の価値は、「それを食べる人の心に寄り添い、どれだけ幸せな時間を提供できるか」にあります。

どれほど高級な食材を使い、どれほど巧みな演出を施したレトルトビーフシチューであっても、街の洋食屋の「丁寧な一皿」と「心休まる空間」がもたらす体験には敵いません。

『ザ・シェフ』が描く「真剣勝負」は、私たちに「食べる喜びの本質」を改めて思い出させてくれる名作エピソードです。

<第1話:幻の料理人①>を読むにはこちらから
https://love-spo.com/article/the-chef_001

『ザ・シェフ』次回へ続く!

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【書籍情報】
『ザ・シェフ』
原作:剣名舞
劇画:加藤唯史

法外な報酬を要求するが、依頼人の希望に応じて料理を作り上げる天才シェフ・味沢匠(あじさわ・たくみ)の活躍を描いた料理劇画。石油産出国であるパミール王国でその全権を握る大臣は、外務省関係者がもてなす帝都ホテルの晩餐をほとんど食べ残して帰る。そこで「幻の料理人」と呼ばれる天才シェフ・味沢匠が、大臣を満足させる晩餐を作るように依頼されるが、味沢はその報酬として500万円を提示して……!?

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