日本の寺院様式は、時代のなかで併存してきた
西洋の寺院は、ロマネスク様式(10〜12世紀)からゴシック様式(12〜15世紀)そして15世紀以降のルネッサンス様式と、時代とともに変化しました。ところが、日本の寺院様式は時代を反映していません。古代から受け継がれた和様、中世に成立した禅宗様と大仏様、おもにこの三つの様式が併存し続けてきたのです。
時代を経ても各様式は葛藤することなく、むしろ混在した折衷様式までうまれています。和様は、奈良時代に唐から伝来した様式がルーツです。そのあと遣唐使の中断などで次第に和風化され、和様と呼ばれるに至りました。
中国では朱塗りだった木部が木肌の素地になり、土間は湿気対策で高床に。柱上と柱間の梁の上に蟇股や束状の間斗束を載せるのは上部の荷重を分散させる和様特有の工夫です。代表例は平等院鳳凰堂などがあります。
禅宗様は、鎌倉時代に宋から伝来した建築様式です。日常生活すべてを修行とする禅宗の考えに基づき、宋の様式をそのまま取り入れました。
和様より垂直性が強く、細部は女性的な曲面をつかい、細かい部材を詰め込んだ組物による構成美が特徴です。代表例は円覚寺舎利殿。大仏様は東大寺再建に際し、当時まだ無名の僧侶、重源が生み出した様式です。
挿肘木(柱に穴を開け肘木を挿し込む手法)という大胆な方法で、雄大豪壮で男性的な表現をするのが特徴です。東大寺南大門や浄土寺浄土堂がその代表です。
その後、鎌倉末期から室町時代にかけ、和様をベースに大仏様や禅宗様の細部を取り入れた折衷様が成立。観心寺本堂がその代表格です。
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「うだつが上がらない」は建築からうまれた言葉?
本書、「図解 建築の話」では建築について様々な知識を提供していますが、ここではその中でも日常生活でもなじみのある「うがつが上がらない」という言葉について、ご紹介しましょう。
「うだつの上がらない人だ」という言葉を聞いたことがあるでしょうか。うだつは漢字で「卯建」と書き、日本家屋に見られる設備です。うだつは防火設備だと解説されることがありますが、当初の目的は違いました。
中世から近世にかけての町家の屋根は、多くが板葺きでした。強い風にあおられると、めくれあがってしまいます。これを防ぐため、茅などを束ねて屋根を押さえたのが、うだつの始まりです。そもそも可燃性ですから、防火機能はほとんどなかったと考えられます。江戸時代に入ると、壁が漆喰塗りになり、屋根は瓦になって、町家の防火性は高まりました。しかし、軒裏部分は火が走りやすいので、袖壁を外に出し、漆喰で固め、延焼を防ぐ「袖うだつ」が登場します。
うだつが防火設備から意匠をこらしたものをにかわったわけ
このころ、うだつが防火設備になったのです。火事が多いのは冬ですから、袖うだつは冬に風が吹く側につければこと足ります。しかしそれではバランスが悪いので、厚みの違うものを両サイドにつけるようになりました。よく観察すると、風下側のうだつは薄く、風上側は火に耐えるよう厚く、つくられていることがわかります。
とはいえ、このようなうだつを設置するのにはそれなりの費用がかかります。そこから「うだつの上がっている家は成功している」というイメージが浸透し、「うだつが上がらない」という表現がうまれたようです。そのためか、現在も残っているうだつの多くは、本来の機能とは別にうだつの壁面には細かい装飾や小屋根に意匠を凝らしたものとなっています。
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出典:『眠れなくなるほど面白い 図解 建築の話』著/スタジオワーク
【書誌情報】
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著者:スタジオワーク
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公開日:2022.10.01