幹細胞って何?【生物の話】

~自己複製能と多分化能~
生命科学は近年目覚ましい発展を遂げています。その目指すところは医療への寄与でしょう。たとえば一度壊れると再生しない神経系の細胞を人工的に回復させることができたとしたら……。そうした再生医療に関係して注目を集めているのが幹細胞です。
幹細胞は、分裂して自分の完全なるコピーを作れる自己複製能と、またいかなる細胞へも分化できる可能性を持つ多分化能を併せ持ちます。
幹細胞で一般にも広く知られているのは胚性幹細胞、英語の頭文字からES細胞と呼ばれます。ES細胞は、受胎直後の胚の、将来からだのもとになる部分の一部を取り出して作られ、無限に増殖することができます。さらに多様な細胞に分化する能力をもっているので、培養液の組成をかえることで、神経細胞、心臓や筋肉の骨格筋、血管や血液細胞をはじめ、皮膚の細胞までもつくることができます。これが、いわゆる万能細胞と言われるゆえんで、医療分野での応用が期待され、実際活用されてもいます。
ただし、ES細胞の活用は倫理的な問題を内包します。受精卵から胚を取り出す必要があるからです。これは生命の萌芽を摘み取ってしまうことを意味します。先進国においても、ヒトのES細胞作成に厳しい制限を設けている国は少なくありません。日本も例外ではなく、不妊治療で凍結保存された胚のうち、母体に戻されず廃棄
が決定した余剰胚に限ってヒトES細胞の作成が認められています。

【出典】『眠れなくなるほど面白い 図解 生物の話』
監修:廣澤瑞子 日本文芸社刊
執筆者プロフィール
横浜生まれ。東京大学農学部農芸化学科卒業。1996年、東京大学大学院農学生命科学研究科応用動物科学専攻博士課程修了。日本学術振興会特別研究員、米イリノイ大学シカゴ校およびドイツマックスプランク生物物理化学研究所の博士研究員を経て、現在は東京大学大学院農学生命科学研究科応用動物科学専攻細胞生化学研究室に助教として在籍。著書に『理科のおさらい 生物』(自由国民社)がある。

「人間は何歳まで生きられる?」「iPS細胞で薄毛を救う?」「三毛猫はなぜメスばかり?」「黒い花は世に存在しない?」ーー生命の誕生・進化から、動物、植物、ヒトの生態、最先端の医療・地球環境、未来まで、生物学でひもとく60のナゾとフシギ!知れば知るほど面白い!
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