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物理でわかる川内優輝選手のような走り方が理にかなっている訳【物理でわかるスポーツの話】

Text:望月修

上下運動を抑えて直線的に走る方が得策

 マラソンを走る際に必要とする力とはどういうものでしょうか?物理的にみれば地面に垂直方向に体重を支える力と前に進む力が合わさって走っています。その合力(ごうりょく:※1)の方向が地面を蹴る方向の角度となります。マラソンの場合、一定速度で走るので、推進力Tはその速度で走るときの空気抵抗力と同じ大きさとなります。空気抵抗力Dは、

D=Ⅽd1/2ρu²A

 で表されます。ここで、Cdは抵抗係数で人間を円柱に見立てるとCd=1.2です。また、Aは上流側から見た人間の正面の面積で、平均的にA=1.3m²です。風との相対速度をuで表しますが、無風時では走る速度そのものです。向かい風では風速を足し、追い風では風速を引きます。

 仮に距離42.195kmを2時間10分で走るマラソン選手の場合、風との相対速度はu=5.4m/sです。なお、ρ は空気の密度のことで標準状態ではρ=1.2kg/m³です。これらより抵抗力を求めるとⅮ=1.2×0.5×1.2×5.4²×1.3=27Nとなります。したがって、推進力T=27Nですから、体重65kgf(※2)=637Nの人では蹴る角度がθ=tan⁻¹(637/27)=88°となります。ほぼ垂直に蹴っているようなものですね。

 体重以上の力を出すと上に跳びはねます。重心は一歩一歩放物線を描いて移動します。跳びはねる高さをymax=0.1mとすると垂直方向速度v₀=1.4m/s、ymaxに達する時間tymaxは速度v=0となる時間なので、tymax=0.14秒となります。xmaxに到達するのにその時間の倍かかりますから、0.28秒です。水平にu₀=5.4m/sでx方向に動きますからxmax=1.51mと求められます。すなわち、歩幅1.51mで走る人は0.1mの上下運動をしていることになり、一歩ずつ0.28秒かかるわけです。

【❶地面を蹴る力の成分】


 42.195kmを1.51m の歩幅で刻むと歩数は27944歩となります。これに0.28秒をかけると7824秒となり、したがって2時間10分24秒でゴールとなります。

 ここからわかるのは、空中に放物線を描いている時間がほとんどということ。とすれば、上下運動を抑えて直線的に走るほうが得策だ、となるわけです。

 この議論はu₀=5.4m/sが前提なので、上下運動のエネルギーロスを防いで右の速度を維持するには、川内優輝選手のような重心をまっすぐに進める走法が、物理的観点からは理に適(かな)っているの
です。

【❷飛びはねながら走るときの一歩あたりの重心の軌跡は放物線】


*1 合力:力学で、物体に2つ以上の力が作用するときの力と効果が等しい1つの力
のこと。または合成力。
*2 kgfとN:どちらも力を表す単位。例えば質量60kgに重力加速度g=9.8m/s²の数値を掛け60×9.8=588Nと表す。

【書誌情報】
『眠れなくなるほど面白い 図解 物理でわかるスポーツの話』
著:望月修

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