【甲子園の投手運用史】「1人の完投」から「2番手の覚醒」へ。データで紐解く優勝校の戦略シフト【ゴジキ著『システムで読む甲子園』特別掲載】

 2018年の大阪桐蔭(柿木、根尾、横川)、2022年の仙台育英(5投手の併用)、2024年の京都国際(中崎31回、西村24 回)のデータが示す通り、優勝するためには最低でも二人、理想的には3人以上の「計算できる投手」の存在が不可欠となった。

 この成功の鍵を握るのが、地方大会から甲子園にかけての「2番手以降の投手の劇的なパフォーマンス向上」、すなわちデータが示す「覚醒」の現象である。

 データの詳細な比較によって、多くの優勝校において2番手投手が地方大会から甲子園本大会にかけて、文字通り「別人のような」スタッツを残していることが確認できる。

 また、データが示す「伏兵の覚醒」が見受けられる。地方大会では戦力として計算されていなかった投手が、甲子園でエース級の働きを見せた象徴的な事例が二つある。

 まずは2003年常総学院の飯島秀明だ。前年エースだったが、地方大会ではわずか1回1/3の登板で2失点と、事実上の圏外であった。しかし甲子園では、エース磯部とほぼ同等の22回2/3を投げ抜き、自責点1、防御率0.40という驚異的な変貌を遂げた。余談だが、この年準優勝の東北はダルビッシュ有が目立っていたが、真壁賢守も地方大会の覚醒の予兆を甲子園で再現性高いピッチングを見せた。

 次に2007年佐賀北の馬場将史だ。地方大会では21回1/3を投げて8失点、与四死球13と制球に不安を残していた。ところが甲子園では36回を投げて自責点8、防御率2.00と安定感が飛躍的に向上。絶対的エースであった久保投手(防御率0.49)との強固な二枚看板を形成するに至った。

 当時は、相手のスカウティングがどうしても「絶対的エース対策」に集中しがちだった。だからこそ、2番手以降が甲子園で別人のように機能すると、相手は準備不足のまま対応を迫られ、試合の設計そのものが崩れる。これが、覚醒が優勝へ直結しやすかった時代のメカニズムである。しかし、地方大会で実績がなく警戒されていない伏兵が突如としてエース級の投球を見せることで、「相手のデータや目論見を無力化する」という強烈なアドバンテージが生まれたのである。また、過酷な連戦によるエースの疲労限界を防ぎ、実質的な「ダブルエース体制」を一時的・突発的に作り出せたことが、チームに爆発的な勢いをもたらした。計算外の戦力がもたらしたこのプラスアルファこそが、激戦を制し頂点に立つための決定的な要因となっていた。

 また、2010年代半ば以降、高校野球を取り巻く環境は激変した。猛暑対策としての休息日の増設、タイブレーク制の導入、そして2020年から施行された「1週間500球以内」の球数制限。これらにより、かつての「一人の絶対的エース」に頼るスタイルは終焉を迎え、「複数投手による継投」が勝利の絶対条件となる時代へとシフトしたのである。

 この時代における2番手以降の投手の躍進は、もはや偶然の産物ではない。大会を勝ち抜くために本番へピークを合わせた、戦略的な「必須条件」へとその性質を変えている。近年の甲子園において、エースを凌駕する、あるいは完璧に補完する形で急成長を遂げた象徴的な事例を挙げる。

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【書誌情報】
『システムで読む甲子園 25年分のデータで解き明かす「勝利と成長」の条件』
著:ゴジキ


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本書は、高校野球の戦い方や制度、時代錯誤などの変遷が顕著になった2000年から2025年に至る「四半世紀分の夏の甲子園出場校データ」を徹底的に解剖し、現代高校野球における「勝利の正体」を明らかにする試みである。

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◎著者プロフィール◎
ゴジキ(@godziki_55)
野球評論家・著作家。著書に『巨人軍解体新書』(光文社新書)、『アンチデータベースボール』(カンゼン)、『戦略で読む高校野球』(集英社新書)などがある。『データで読む甲子園の怪物たち』(集英社新書)と『マネジメント術で読むプロ野球監督論』(光文社新書)は発売前重版を記録。
連載実績として「ゴジキの巨人軍解体新書」「データで読む高校野球2022」「ゴジキの新・野球論」などを担当し、現在はサイゾーオンラインにて「ゴジキの野球戦術ちゃんねる」を連載中。
週刊プレイボーイ、スポーツ報知、女性セブン、日刊SPA!、集英社オンライン、現代ビジネスなど各種メディアでの寄稿・取材も多数。Yahoo!ニュース エキスパートにも選出されている。

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