【甲子園の投手運用史】「1人の完投」から「2番手の覚醒」へ。データで紐解く優勝校の戦略シフト【ゴジキ著『システムで読む甲子園』特別掲載】

 まずは、2019年履正社の岩崎峻典だ。エースの清水が甲子園での防御率4.04と苦戦を強いられるなか、岩崎投手が18回1/3を投げ、防御率1.96と快投。不調のエースを完全にカバーし、チームを頂点へと導いた。

 次に、2022年仙台育英の斎藤蓉だ。地方大会での登板はケガもあり「0イニング」。地方大会では実力を温存され、甲子園で初めてベールを脱ぐと、チーム最長の14回2/3を投げ抜き、防御率1.23を記録。「秘密兵器」としての役割を完璧に遂行した。

 この「地方大会での沈黙から甲子園での爆発」という流れは、2023年の慶応義塾高校の投手陣にも見て取れる。特に鈴木佳門と松井喜一の2人だ。鈴木は神奈川県大会ではエース小宅投手の影に隠れがちだったが、甲子園に入ると140キロ中盤の直球を武器に急成長。準決勝の土浦日大戦で見せた、勝負所での冷静かつ力強い投球はまさに覚醒の瞬間だった。松井も、地方大会では登板機会が限られていたが、甲子園の舞台でマウンドに上がると、その堂々たる投げっぷりで相手打線を翻弄。鈴木とともに「二枚看板」へと進化を遂げ、層の厚い投手リレーを完成させて107年ぶりの全国制覇を手繰り寄せた。

 直近を振り返ると、2024年京都国際の西村一毅もそうだ。地方大会では20回を投げて4失点という成績であったが、甲子園では24回を投げて「自責点0(防御率0.00)」という、まさに無双状態へと覚醒。エース中崎(防御率1.4 5)を上回る圧巻の投球を見せた。

 さらに、2025年沖縄尚学の新垣有絃も、地方大会での登板は12 回(1失点)にとどまったが、甲子園ではイニング数を倍近い22回へと伸ばしつつ、防御率0.82という驚異的な安定感を披露。エース末吉投手(防御率1.06)と共に、付け入る隙のない「完全なるダブルエース」として君臨した。

 かつての覚醒が「予期せぬ救世主の登場」であったのに対し、現代におけるそれは、緻密な登板管理とピーキング戦略に基づいた「計画的な戦力の最大化」であると言える。

 エースの負担を分散させるだけでなく、地方大会で実績の少ない投手が甲子園でエース以上のパフォーマンスを発揮することは、相手チームの分析を攪乱し、攻略を困難にさせる。この「2番手以降のステップアップ」を大会期間中に引き出せるかどうかが、現代の甲子園を制するための最大の鍵となっている。

【出典】『システムで読む甲子園 25年分のデータで解き明かす「勝利と成長」の条件』著:ゴジキ(@godziki_55)


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【書誌情報】
『システムで読む甲子園 25年分のデータで解き明かす「勝利と成長」の条件』
著:ゴジキ


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◎著者プロフィール◎
ゴジキ(@godziki_55)
野球評論家・著作家。著書に『巨人軍解体新書』(光文社新書)、『アンチデータベースボール』(カンゼン)、『戦略で読む高校野球』(集英社新書)などがある。『データで読む甲子園の怪物たち』(集英社新書)と『マネジメント術で読むプロ野球監督論』(光文社新書)は発売前重版を記録。
連載実績として「ゴジキの巨人軍解体新書」「データで読む高校野球2022」「ゴジキの新・野球論」などを担当し、現在はサイゾーオンラインにて「ゴジキの野球戦術ちゃんねる」を連載中。
週刊プレイボーイ、スポーツ報知、女性セブン、日刊SPA!、集英社オンライン、現代ビジネスなど各種メディアでの寄稿・取材も多数。Yahoo!ニュース エキスパートにも選出されている。

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