ファンが胴上げ。赤ヘル古葉竹識【二宮清純 スポーツの嵐】

カープ日本一の全てで監督を務めた古葉氏
プロ野球が始まって今年で85年になるが、ファンの手で胴上げされた監督は、後にも先にも、さる11月12日、85歳で死去した古葉竹識さんだけだろう。
1975年10月15日、広島カープは敵地・後楽園球場で巨人を破り、球団創設26年目にして初のリーグ優勝を果たした。
1950年の2リーグ分立を機に産声をあげたカープは、Bクラスの常連だった。Aクラスに入ったのは68年の1度だけ。初優勝前の3年間は、いずれも最下位で、セ・リーグのお荷物と揶揄されていた。
それが帽子の色を紺から赤に変えた途端に強くなり、あれよあれよという間に頂点にまで上り詰めたのだ。
後に“ミスター赤ヘル”と呼ばれる4番・山本浩二が首位打者を獲り、前後をゲイル・ホプキンス、衣笠祥雄という長距離砲で固めた。
守っては二遊間コンビを組んだ大下剛史と三村敏之の好守が光った。
ピッチャーに目を移すと、エースは20勝をあげ沢村賞に輝いた外木場義郎。若手の池谷公二郎は18勝、佐伯和司は15勝をあげた。
そして抑えは“キックの宮さん”と呼ばれた宮本幸信。判定を巡って審判ともめ、挙句、跳び蹴りを見舞うほどの激情家だった。
「赤は戦いの色だ」と宣言して帽子の色を変えた監督のジョー・ルーツが5月途中に退団し、守備コーチから昇格した古葉さんは、機動力重視の野球で、セ・リーグに“赤ヘル旋風”を巻き起こしたのである。
優勝が決まった瞬間、古葉さんの胴上げに参加しようと、カープファンの一部が外野フェンスを越え、グラウンドになだれ込んできた。
以下は生前、古葉さんから聞いた話。
「僕は最初、お客さんが選手たちと何か話し合っているのかと思った。ところが皆さん、僕の方に向かってガンガンくる。気がつくと下にいるわけですよ。僕はもう心配で、降りなきゃいけない、降りなきゃいけないと思っているうちに胴上げが終わった。こんな胴上げ、滅多にないでしょうねぇ」
その時の写真を見ると、選手やコーチたちに交じり、ファンの手が古葉さんを宙に押し上げているのだ。カープファンにとっては、待ちに待った優勝だったのである。
ちなみにカープは3回日本一になっているが、監督は全て古葉さんである。日本一に輝いた3回の日本シリーズは、いずれも4勝3敗。座右の銘である「耐えて勝つ」を地で行くような勝負師だった。合掌
(初出=週刊漫画ゴラク2021年12月3日発売号)
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