12:他の人には見えないものが本人にははっきりと見える世界
○エピソード
母は夜に、「部屋の隅に兵隊さんがいる」と、決まった場所を指さしてよく言います。でも、誰もいません。また、エアコンの吹き出し口を指さし、「そこからどんどんフィルムが出てきている」とも言います。ちょっと怖いです。
【あるある行動】実際にはないものが見えているようだ
この現象は、「幻覚」というものかもしれません。認知症の人は、そこにない人や動物、虫、物などがリアづに見え、誤認・錯覚してしまうのです。
幻覚は、特にレビー小体型認知症に現れる症状ですが、全員に現れるものではありません。アルツハイマー型認知症の人にも、この症状がみられることがあるといわれています。
食べ物にかかったごまやパセリを「虫」と言ったり、部屋の隅など薄暗いところや、逆に光が強く差した影に「何か」が見えたりもします。つまり、「見えないものが見える」のではなく「見えているもの」をかつて見た体験記憶の物と照合し、誤認・錯覚しているようです。
幻覚には、3つの点を人の顔(目と口)に見えてしまう現象もあります。柱の節目を人の顔と、観葉植物の影を人の姿と誤認することなども症状の一つです。
幻覚は、本人の気持ちによって対応の必要性が異なります。本人が幻覚を受け入れて納得できていれば、問題はあまり大きくなりません。否定も肯定もせず見守りましょう。一方、本人が恐怖や不快、不安を感じていたら対応が必要です。
視力低下があったり、薬の副作用・脱水・昼夜逆転などの影響による、夢か現実か判断したい「せん妄」という状態のときも誤認しやすくなります。
○もしあなたがこの世界にいたら?
もし、すぐ横に人がいるのに、他の人から「いないよ」と言われたら、あなたはどう思いますか?
【出典】『認知症の人に寄り添う・伝わる言葉かけ&接し方』著:山川淳司 椎名淳一 加藤史子
【書誌情報】
『認知症の人に寄り添う・伝わる言葉かけ&接し方』
著:山川淳司 椎名淳一 加藤史子
認知症は、理解しにくい言動を引き起こす脳の病気です。家族が「どう言葉をかけたらいいんだろう」「どう接したらいいのかな」「とてもつらい」と感じることが多いでしょう。「認知症の人に寄り添う・伝わる言葉かけ&接し方」では、介護現場の専門家が日々の接し方や対応のヒントを提供し、プロの視点と方法で、家庭での介護が少しでもラクになるように、ご本人とともにかけがえのない日々を過ごしてほしいという願いが込められています。「認知症の人に寄り添う・伝わる言葉かけ&接し方」を活用して、実践してほしいと思います。今後のためにも読んでおきたいおすすめの一冊です。
公開日:2024.07.13