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「理論」か「感性」か 。「非言語」の達人も【二宮清純 スポーツの嵐】

Text:二宮清純

「左の太腿にブツけるんだ!」

 ある指導者講習会を覗いた時のことだ。講師役の学識経験者が、選手を指導する際には、自らの経験に頼るのではなく、それをいかに「言語化」するかが重要である、と若い指導者たちに説いていた。

 お説ごもっともである。自分にとってよかったことが、必ずしも選手にとって役に立つとは限らない。

 人間、100人いれば100人とも体格、体型、骨格が異なる。もちろん性格も違う。似通っていたとしても、年齢、故障歴、病歴、それまでの指導歴まで同一ということはありえない。

 その意味で、どの選手に対しても上から目線で一方的に伝えるのではなく、選手ひとりひとりが理解できるように噛んで含めるように説明する作業、すなわち「言語化」はきわめて大切だ。

 しかし、その一方で、スポーツの世界には「非言語化コミュニケーション」の達人もいる。

 これは、いわゆる「ノンバーバル・コミュニケーション」と呼ばれるもので、表情や身振り手振りなどで、相手に気持ちや情報を伝える、ひとつのテクニックのことだ。

 その右代表が“ミスター”こと長嶋茂雄である。

 ミスターは選手にバッティングを指導する際、擬音語をよく用いた。

 現在、中日でプレーする中島宏之は西武時代の04年、宮崎・南郷キャンプでミスターから時別指導を受けた。

「インパクトの瞬間、バチーンとチンチンを左の太腿にブツけるんだ!」

「バチーンですか?」

「そう、バチーンと」

 首をひねる選手が続出する中、中島はミスターの指導がよく理解できた。

「長嶋さんは音で力の加減を表現するんです。バーンならバーン。バンならバン。ギュッと言わはったら、実際にギュッと体を回せばいいんです。“ここの角度がこう”なんて説明されるより全然わかりやすかった」

 ミスターの指導後、中島の打球の質は目に見えてよくなった。

 このように指導といっても千差万別である。

「踏み込む左足を1ミリ前に出せ!」

 と具体的な指示を出す指導者がいる一方で、ミスターのように「バチーン」の一言で、肝の部分を正確に伝えることができる者もいる。

 いっそのこと指導者も「言語化」と「非言語化」に分け、選手が自らの意思で選べる仕組みにしたらどうだろう。

 理論か感性か。さて、あなたはどちら派か?

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