大谷翔平スパート。 歴史を塗り替えろ【二宮清純 スポーツの嵐】

川上哲治や王貞治も
二刀流だった
メジャーリーグは最終盤を迎え、プレーオフ進出をかけた争いが続いている。この号が書店に並ぶ頃には、既に決着がついているだろう
そんな中、大谷翔平の所属するエンゼルスは現地時間9月27日現在、74勝82敗でア・リーグ西地区4位。プレーオフ進出の可能性はない。
日本のファンが期待するのは大谷のベーブ・ルース以来103年ぶりとなる2ケタ勝利、2ケタホームラン。そして、日本人選手として初のホームランキングだ。連日、テレビのスポーツニュースはこの話題で持ち切りである。
野村克也さんが生きていたら「テレビはアメリカの野球ばかりやないか。もっと日本の野球を大事にせい」とボヤいていたことだろう。
そう言えば生前、ノムさんは大谷の“二刀流”にも否定的だった。
「二刀流? ふざけるな」
「一刀流だけでも大変なのに、プロ野球をなめるな」
しばらくして、こうした発言は撤回したものの、私にはこうこぼした。
「バッターはピッチャーをやめてからでもできるんじゃないかな。それが僕たちの時代の常識でしたよ」
ノムさんの頭の中にあったのは「記録」である。二刀流ではピッチャーとしての記録もバッターとしての記録も中途半端になってしまう。それでは「歴史に名を残せない」というのである。
「ベーブ・ルースだって、メジャーリーグの歴史に残っているのは714本もホームランを打ったからでしょう」
その点については、確かにノムさんの言う通りだ。ハンク・アーロンに破られるまでルースの通算ホームラン記録はアンタッチャブルな存在だった。
その一方で、ルースの通算勝ち星を覚えている者は、ほとんどいない。94勝(46敗)。かくいう私も調べる前は知らなかった。
ノムさんが「ピッチャー・ファースト、バッター・セカンド」を主張した背景には“打撃の神様”川上哲治と“世界のホームラン王”王貞治の成功体験を見てきたからだろう。
二人ともプロ入り直後は“二刀流”だった。甲子園の優勝投手である王はプロでは一度もマウンドには上がっていないが、本人は「ピッチャーを辞めるのには未練があった」と語っている。
一方の川上は巨人入団以来、4年間は二刀流で通算11勝(9敗)をあげている。
ノムさんには悪いが大谷に「僕たちの時代の常識」は通用しなかった。記録は常に上書きされ、歴史は常に塗り替えられるのである。
(初出=週刊漫画ゴラク2021年10月8日発売号)
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