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大谷翔平の広角弾。過去の常識を一変【二宮清純 スポーツの嵐】

Text:二宮清純

止まらない大谷

 ホームランは野球の華――とは、よく言ったものだ。

 誰にも邪魔されることなくダイヤモンドを一周する快感は、ホームランバッターにしか味わえないものだ。

 ドジャース大谷翔平が止まらなくなってきた。5月6日(現地時間)、本拠地でのマーリンズ戦で、3試合連続となる11号2ランをバックスクリーンに叩き込んだ。

 打球は107・6マイル(約173キロ)、飛距離441フィート(約134メートル)の特大弾だった。

 現地放送では実況アナが「ショットガンのような打球音だ」と叫んでいた。

 大谷はレフトポールからライトポールまで、90度全方向にホームランを叩き込むことができる。日米通算4367安打のイチロー(マリナーズなど)の持ち味が“広角ヒット”なら、大谷のそれは“広角ホームラン”だ。

 大谷が松井秀喜(ヤンキースなど)の持つMLB日本人選手最多ホームラン記録(175本)に並んだのが、4月12日(現地時間)。

 175本時点の2人の打球方向の内訳は以下の通り(『Baseboll Referense』より)。

 大谷=レフト方向16本(9・1%)、センター方向109本(62・3%)、ライト方向50本(28・6%)。

 松井=レフト方向5本(2・9%)、センター方向59本(33・7%)、ライト方向111本(63・4%)。

 近年、「バレルゾーン」という言葉を、よく耳にする。要は「打球の最適な角度と速度の組み合わせによって、長打になりやすいゾーンを指した指標」である。仮に打球速度が158キロ以上なら、打球角度は26~30度が理想だ。

 昨季、44本塁打でア・リーグの本塁打王に輝いた大谷のバレル率は19・6%で、MLB30球団中トップだった。

 昨季、ある試合で大谷が、160キロ近いフォーシームを左翼席に放り込んだ際、ある解説者は「詰まった打球なのに、よくあそこまで飛びましたね」と感想を口にした。

 揚げ足を取るわけではないが、大谷は「詰まった」のではなく、わざと「詰まらせた」のではないか。詰まらせることで、打球を上げ、パワーで押し込んだように私には見えた。大谷のレフト方向への打球がポールの左に切れないのは、詰まらせる技術を習得しているからだろう。

 また「左へ流したホームラン」という定番のフレーズも、こと大谷に関してはあてはまらない。大谷は逆方向にも引っ張っている。ぎりぎりまで引き寄せ、しばき上げている。伝える側も、過去の認識を改めなくてはなるまい。

初出=週刊漫画ゴラク2024年5月24日発売号

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