どうしたマリニン。ミラノショッカー【二宮清純 スポーツの嵐】

敗因は「五輪の呪い」か

 なにか見てはいけないものを見てしまったような、摩訶不思議な気分に陥ったのは、私だけではあるまい。

 ミラノ・コルティナ五輪フィギュアスケート男子フリー。ショートプログラム(SP)首位のイリア・マリニン(米国)は、信じられないようなミスを連発し、総合8位に沈んだ。

 冒頭で4回転フリップを決めた時点で、この先に待ち受ける大波乱を想像した者はいなかったはずだ。

 ところが、ここから舞台は暗転する。トレードマークのクワッドアクセル(4回転半)は、回転が抜け1回転半に。4回転ループも2回転にとどまった。

 後半に入っても悪い流れは断ち切れず、2度も転倒。フィニッシュ後は手で顔を覆い、天を仰いだ。

「4回転の神様」と呼ばれるマリニン。世界初の4回転アクセルを成功させたのが2022年9月。23年のグランプリファイナルを制してからは、ここ2シーズン負けなし。ミラノでも金メダルの大本命だった。

 マリニンに対する英国のあるブックメーカーのオッズはマイナス10000。仮に1万ドルかけた場合、100ドルが戻ってくる計算になる。利益率は、わずか1%。

 参考までに紹介すれば、英国の大手銀行の平均的な普通預金の金利は1.19%。マリニンに賭けるくらいなら、銀行に預けておいた方がまだ得だ、という判断が働くはずだ。

 日本流に言えば「テッパンもテッパン」だったわけだが、五輪の女神は、時に神に近付くものに、ひどい仕打ちをする。もしかすると「クワッドゴッド」というマリニンの称号が、気に障ったのかもしれない。

「五輪には“呪い”があると言われる。金メダルの本命は失敗するんだと。重圧は想像以上だった。それが本当に起きてしまったんだ」

 マリニンは、最大の敗因を「五輪の呪い」に求めた。リンクには“魔物”が棲んでいたというのである。

 重圧の背景には、つい5日前に終わったばかりの団体戦での疲れもあったのではないか。関係者の中には「団体戦は個人戦の後に行うべきだ」という声もある。

 金メダルは、羽生結弦を尊敬するというカザフスタンのミハイル・シャイドロフ。こちらのオッズは、マリニンとは真逆のプラス10000。つまり100倍である。100ドル(約1万5300円)賭けて、1万ドル(約153万円)。海外のスポーツ系メディアには「Milano Shocker!」なる見出しが躍っていた。

初出=週刊漫画ゴラク3月6日発売号

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