なぜ「フォークロア」は呼び名を変えたのか? 民俗学にかけられたイメージからの脱却の歴史【眠れなくなるほど面白い 図解 民俗学の話】

【「ヴァナキュラー」とは何か】「フォークロア」と「ヴァナキュラー」

どんな社会集団にも存在する「民俗」

かつて、民俗学の研究対象は「フォークロア」と呼ばれていました。人びと(フォーク)の知識(ロア)を意味するフォークロア(folklore)という英語は、イギリスの古事学者ウィリアム・トムズが造語したものです。以後、英語圏では、フォークロアの語のもとにさまざまな事物が民俗学の研究対象とされるようになりましたが、その多くは地方で伝えられている民間説話や民謡、そして生活上のさまざまな慣習などでした。

そして、その過程で世の中の人びとは、フォークロアを「時代遅れの田舎の農民たちが伝えている、どこか奇妙で、でも懐かしいものごと」として理解するようになり、民俗学についても「田舎の古くさいものを扱っている学問」というイメージがつくられていきました。

そうした中、1960年代にアメリカの民俗学者アラン・ダンデスは、フォークロアは「田舎に伝わる古風な風習ではなく、どんな社会集団にも存在するもの」と主張し、「民俗」概念の刷新を図りました。

ところが、一般社会ではフォークロアに対する旧来のイメージが依然として存在し続けていたため、1990年代以降、民俗学者たちはフォークロアに代わる語として「ヴァナキュラー(vernacular)」という語を用いるようになってきました

「フォークロア」から「ヴァナキュラー」へ

フォークロア

人間に関係するさまざまなものごと。特に地方で伝えられた民間説話や民謡、生活上の慣習など。

一般社会において、民俗学の研究対象は「田舎の古くなくて奇妙な風習」というイメージが定着していった。

アラン・ダンデス(1934-2005)

少なくとも一つの共通の要素を共有しているならば、どのような集団であろうと、その集団はフォークである。集団の結合要素は何であろうとかまわない。共通の職業であってもよいし、言語または宗教でもよい。そしてこの集団が共有する知識がフォークロアである。

ヴァナキュラー

権威や公的な制度から距離のある、人びとの生活に深く根ざした非公式的な文化や伝統。

1990年代以降、一般に浸透した「フォークロア」という語に対する偏ったイメージを払拭するため、「ヴァナキュラー」という語を用いる傾向が強まっていった。

ただし、ダンデスが定義した「フォークロア」の語には何の問題もなく、今でもこの語を使う民俗学者は多い。

【出典】『眠れなくなるほど面白い 図解 民俗学の話』監修:島村恭則

【監修者紹介】
島村恭則(しまむら・たかのり)
民俗学者。関西学院大学社会学部長・教授。1967(昭和42)年、東京都生まれ。筑波大学大学院博士課程歴史・人類学研究科単位取得退学。文学博士(筑波大学)。国立歴史民俗博物館教官、韓国・翰林大学校客員教授、東京大学客員教授などを歴任。日本各地で民俗学調査を行うとともに、韓国・中国での調査・研究も行う。
近年は、世界民俗学史をふまえた民俗学理論の研究、とくに民俗学を国際的・学際的な「ヴァナキュラー文化研究」として再編成する議論を展開している。
著書に『みんなの民俗学 ヴァナキュラーってなんだ?』(平凡社)、『民俗学を生きる ヴァナキュラー研究への道』(晃洋書房)、『これからの時代を生き抜くための民俗学入門』(辰巳出版)、『昔話の民俗学入門 民間伝承の秘密を読み解く』(創元社)、編著に『現代民俗学入門 身近な風習の秘密を解き明かす』(創元社)などがある。

【書誌情報】
『眠れなくなるほど面白い 図解 民俗学の話』
監修:島村恭則


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現代の社会を知る上でも重要な学問ともいわれる「民俗学」。
そもそも「民俗学」とは「民」(=人々)について「俗」(=ヴァナキュラー)の視点で研究する学問であり、日本においては、春夏秋冬の年中行事や風習から、身近な衣食住の伝統や習慣など、都市や地方のあらゆる「文化・もの」について、歴史や謂われ、理由などが存在する。
本書では、現代にも繋がる礼儀やしきたりや祭祀、文化や風習、民間伝承、芸能、文化遺産から、昔話、怪談、(都市)伝説、B級グルメ、ネットミーム、パワースポット、七不思議伝と言われるものまで幅広く取り上げ、「現代民俗学」としてあらゆるジャンルについてわかりやすく紹介、解説する。

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