なぜ首里城は「火災で焼失」しても世界遺産から消えなかったのか 「登録を維持できる遺産」の判断基準とは?【眠れなくなるほど面白い 図解 世界遺産】

永遠じゃない! 世界遺産が消えるとき

 一度、世界遺産リストに登録されたら永遠に安泰かというと、残念ながらそうではありません。登録の根拠となる「顕著な普遍的価値(OUV)」が損なわれたと判断されれば、世界遺産リストから削除されることもあります。実際に削除されるのはごく稀ですが、現在までに3件の事例があります。

 最初に削除されたのは、オマーンの「アラビアオリックスの保護区」です。オマーン政府が資源開発を優先し、保護区の面積を大幅に縮小したことがOUVの毀損につながり、2007年に削除されました。次に削除されたのが、ドイツの「ドレスデン・エルベ渓谷」です。住民の生活の利便性を上げるために、近代的な橋を建設する計画が文化的景観を損なうとして問題になり、それが実行に移されたため2009年に削除されました。そして2021年に削除されたのが英国の「リヴァプール海商都市」です。ウォーター・フロント開発による景観悪化などが理由で削除されました。

 これらの事例から見えてくるのは、世界遺産の本質が登録ではなく、「守る」ことにあるという揺るぎない事実です。世界遺産は固定された栄誉ではなく、その価値を未来へ受け渡すという約束の上に成り立っています。その約束が果たされなければ、リストからの削除は避けられないということです。遺産の価値は自然や街並みの変化、そして人間の意思決定により揺らぎます。便利さや開発はどこまで必要か、守るべき景観とはどこまでを指すのか。世界遺産を巡る議論は、私たち自身がどのような未来を選択し、次の世代に残すかという問いにもつながっているのです。

これまでに削除された世界遺産3件

アラビアオリックスの保護区(オマーン国)

アラビアオリックス保護のため設定された保護地区は、石油・天然ガス開発を優先して面積の約90%を削減。結果としてOUVが損なわれ、2007年に世界遺産リストから削除されました。

ドレスデン・エルベ渓谷(ドイツ連邦共和国)

エルベ川に新しい橋を架ける計画が文化的景観を損なうとして問題視されました。住民投票で建設賛成が多数となり工事が進められた結果、2009年に世界遺産リストから削除されました。

リヴァプール海商都市(英国)

開発による景観の悪化や、世界遺産周辺のバッファー・ゾーンでの開発、さらに登録エリア内での新たなサッカー・スタジアム建設計画も動き出したことから2021年に削除されました。

基準はOUV!損傷しても削除されない遺産もある

2019年、沖縄の世界遺産「琉球王国のグスク及び関連遺産群」に含まれる首里城正殿が火災で焼失しました。一見するとOUVも失われたように感じますが、世界遺産リストからは削除されませんでした。というのも、世界遺産として評価されたのは、正殿そのものではなく地下の基壇の遺構や周囲の城壁などで、戦後に再建された正殿はそもそもOUVの構成要素に含まれていなかったためです。

【出典】『眠れなくなるほど面白い 図解 世界遺産』監修:宮澤 光

【監修者紹介】
宮澤 光(みやざわ・ひかる)
NPO法人世界遺産アカデミー主任研究員。北海道大学大学院博士後期課程を満期単位取得退学。仏グルノーブル第Ⅱ大学留学。2008年より現職。跡見学園女子大学非常勤講師。世界遺産に関するさまざまな書籍の編集・執筆・監修を手掛けるほか、「チコちゃんに叱られる!」(NHK)などの多くのメディア出演や、全国各地で100本を超す講演・講座を実施している。著書に『13歳からの世界遺産』(マイナビ出版)、『世界遺産のひみつ』(イースト・プレス)など。

【書誌情報】
『眠れなくなるほど面白い 図解 世界遺産』
監修:宮澤 光


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