【特別対談】『AGAVES アガベ』監修者×翻訳者が語る、学名表記へのこだわり

世界のアガベシーンを網羅した決定版図鑑『AGAVES アガベ』の日本語版制作において、監修のShabomaniac!氏と翻訳のdog.keeper氏が最も白熱した議論を重ね、こだわり抜いたのが「植物の分類」と「学名の表記」について。そこには、単なる海外書の翻訳を超えた、日本の愛好家への並々ならぬ熱意と配慮があったのです。

撮影:天野憲仁(日本文芸社)

最新の分類体系を反映――変化し続けるアガベ研究への対応

―― 日本語版の制作にあたって、お二人が最も議論を重ねたのは「分類」や「学名」についてだったそうですね。

Shabomaniac!:ええ、学名表記にはこだわりましたね。アガベ属の分類は近年、DNA解析の進展によって大きく動いています。原著が出版されてからの数年間でも、研究が進んで異論が示されたりしているところがあるので、そういう情報を注記などで補足しました。

dog.keeper氏所蔵の原著書と『Agaves of Continental North America』(Howard Scott Gentry 著)、Shabomaniac!氏の近刊『Agave Complete アガベ 原種・名品図鑑』などを囲みながら、アガベの魅力や奥深さについて語り合うお二人。

dog.keeper :ラテン語の学名表記のまま本にするのは難しいので、読み仮名をつける必要がありました。ところが、それぞれの株が輸入された時期やルートの違いを背景に、同じ学名でも異なる読み方が広まり、呼称が統一されていないという問題もありました。    

Shabomaniac!:1つの植物を1つの名前に結びつけておかないと、取引する上でも栽培する上でも愛好家が混乱してしまいます。あっちの学説、こっちの学説とつまみ食いをしてしまうと、本としてぐちゃぐちゃになってしまいますからね。

そこで我々は、現在スタンダードになっているイギリスの王立キュー植物園の最新の分類体系に準拠して整理を行いました。ここから10年経てばまた変わるかもしれませんが、出版時点の最新の知見をしっかり反映させることに骨を折りました。

――SNSなどで「これとこれ、近い種では?」と議論になっても、ランなど別の業界でも最終的に信頼を置いている基準がキュー植物園のデータベースのようですね。

dog.keeper:そうですね。大英帝国時代から続く博物学や自然科学の積み重ねには、歴史の重みを感じますし、本当にありがたい存在です。英国には、ダーウィンやウォレス、ジョセフ・フッカー、さらにはキュー王立植物園へと受け継がれる自然史研究とナチュラリストの伝統がありますもんね。

ラテン語読みか、固有の発音か――日本の園芸文化への寄り添い

―― 分類のアップデートだけでなく、「学名のカタカナ表記」にも相当な苦労があったと伺いました。

Shabomaniac!:学名というのはラテン語なので、基本的にはローマ字読み的に発音するのがセオリーなんですが、アメリカ人は英語的に読むのでその名前がすでに日本で定着していることもあり、そこが難しいんです。

我々はガイドラインを設け、基本はラテン語読みに準拠しつつ、人名や地名に由来する学名は、その固有の発音を優先して調整しました。それでも、日本でほぼ完全に呼び名が定着しているものについては、悩ましかったですね。

dog.keeper:例えば、アメリカ人の名に由来する学名は英語の発音に、スペイン語圏の人物に由来する学名はスペイン語の発音に近いカタカナ表記としました。 一例を挙げると、「ニッケルシアエ(Agave nickelsiae)」という学名があります。この学名は、19世紀に活躍したアメリカ人女性、アンナ・ニッケルズの名に由来しています。

Shabomaniac!:アメリカ人は「ニッケルシー」と呼ぶし、日本でもそっちの方が定着しています。また、原著には当然書かれていない日本での呼び方、たとえば「ニッケルシアエ」なら、「笹吹雪」といった園芸名もしっかり併記しました。

dog.keeper:台湾など漢字文化圏の人たちも日本の名前をそのまま使っているので、情報の紐付けはとても大事なんですよね。

Shabomaniac!: 単なる海外情報の輸入ではなく、日本の愛好家たちがこの本を開いたときに、自分たちが育てているアガベと情報がしっかり結びつくようにしたかったんです。


読者の利便性と学術的な正確性。その両立を目指したこの『AGAVES アガベ』には、アガベへの深い愛情と、日本の愛好家へのお二人の熱い思いが詰まっています。

Shabomaniac!さんの近刊はこちら

【書誌情報】
『AGAVES アガベ』
著者:ジェレミー・スパス、ジェフ・ムーア
日本語版監修:Shabomaniac!
日本語版翻訳:dog.keeper


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世界的な名著『AGAVES』待望の日本語完訳版。全980点の写真と最新の分類・栽培法、自生地や文化的背景まで徹底解説。初心者からコレクターまで、一生モノの「アガベのバイブル」となる決定版です。

【日本語版監修・翻訳者紹介】
Shabomaniac!

園芸家。サボテンや多肉植物の育成・研究を行い、「Habitat Style」を提唱。育成記録や自生地の旅をSNSで発信し、『Agave Complete アガベ 原種・名品図鑑』はじめ、多数の植物関連書籍を執筆。
ブログ:http://shabomaniac.blog13.fc2.com
Instagram:@shabomaniac

dog.keeper

植物愛好家で進化生物学の研究にも取り組む。アガベやシダ植物などの魅力を、科学的な視点からSNSや執筆を通じて伝えている。
ブログ:https://note.com/dog_keeper
Instagram:@dog.keeper/

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