余力十分で引退した江川卓、村田兆治、王貞治！

レジェンドたちの、引き際

ボロボロになるまで現役を続ける男、余力を残してユニフォームを脱ぐ男……

プロ野球選手の引き際はさまざまだ。あくまでも現役にこだわるか、余力を残して引退するか。球界に名を刻むレジェンドたちの引き際は興味深い。

どんなに余力があっても己の意思で引き際を決断！

十分な成績を残しながらも、自身で納得できるパフォーマンスを見せることができなくなった時が引き際。そう考えるレジェンドたちは、プロのスポーツ選手としての揺るぎないプライドを覗かせる。

個人的に印象深いのは江川卓の引退である。プロ野球のテレビ中継が地上波のゴールデンで放映されていた1980年代。ブラウン管から映し出される怪物・江川卓の投球の凄さは、当時小学生だった筆者でも理解できたほどであり、巨人のエースとして躍動していた。

1987年は13勝5敗の好成績でリーグ優勝の原動力となったのだが、シーズン終盤の広島戦で小早川毅彦から2打席連続で本塁打を浴びて敗戦投手になると、試合後の江川卓は人目をはばかることなく号泣。この時の真意を理解する者は いなかったが、実は小早川毅彦に投じた渾身のストレートが打たれたら引退を決意していたのである。8年連続2ケタ勝利を挙げていた怪物の引き際は、強烈なインパクトを残した。

ロッテの村田兆治も、大きな余力を残して引退したレジェンドの一人。全身に力を溜めてから投じる「マサカリ投法」から投げ込む豪快なストレートと切れ味抜群のフォークで200勝を挙げた。投手の生命線とも言える肘にメスを入れた後の1985年に復活を遂げ、40歳になった1990年は2度の完封を含む10勝をマークした。

だが、人生先発完投を座右の銘にしていた村田兆治は、完投能力に限界を感じたこのシーズンを引き際としたのだ。降りしきる雨のなかでの引退試合は、ペナント最後の対西武ライオンズ戦。タイトルホルダーのデストラーデや全盛期の清原和博らを抑え、5回雨天 コールドながら先発完投勝利を収めた。 この日も村田のストレート、フォーク、スライダーは冴えに冴え渡り、投手が引退を決断する理由のそれではなかった。

なお、村田兆治は2018年のロッテオリオンズ誕生50周年特別試合の始球式に登板し、68歳の年齢にして112キロを 計測する超人ぶりを見せており、引退した時にどれほどの余力を残していたのかは計り知れない。

打率・236、30本塁打、84打点。この成績は打率こそやや寂しい感もあるが、現在のプロ野球でもクリーンアップとして及第点の数字だろう。だが「世界の本塁打王」こと王貞治にとってはとても納得できる数字ではなかった。体力に自信があった王貞治は43歳くらいまで現役を続け1000本塁打を目指していたが、1977年に世界新記録の756本塁打を達成すると、モチベーションが一気に下がったという。

それでも翌年以降も3割、30本をクリアするレジェンドぶりを見せているが、1979年あたりから納得できるバッティングができなくなり、ファンを失望させたくなかったとの理由で1980年に現役生活を終えている。あまりにも早すぎる幕引きのようにも思えるが、そこにはプロとして譲れない信念があった。

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