井上尚弥に軍配 勝因は先手必勝【二宮清純 スポーツの嵐】

仕掛ける姿勢で掴んだ勝利

  ボクシングで、全階級を通じた最強選手を選出する「パウンド・フォー・パウンド(PFP)」ランキングは、多くのメディアが公表している。その中で、最も権威があると言われているのが、米国の老舗メディア「ザ・リング」によるものだ。

 PFPは、リング誌の初代編集長ナット・フライシャーが、1950年代初頭に考案した概念で、ウェルター級とミドル級でケタ外れの強さを誇ったシュガー・レイ・ロビンソン(米国)の功績を称えるためのものだった。

 そのPFP1位に、5月2日、東京ドームで前WBC&IBF統一世界バンタム級王者・中谷潤人を判定で下した世界スーパーバンタム級4団体統一王者の井上尚弥が、2年ぶりに返り咲いた。

 ボクサーにとって、これ以上の名誉はない。早速、尚弥は自らのSNSに<この試合を評価していただいて得た返り咲きは、とても価値あるものです>と投稿した。

「THE DAY」と銘打たれた世紀の一戦、対戦を呼びかけたのは尚弥だった。

 2025年3月31日、都内で開かれた年間表彰式で、「中谷君、1年後の東京ドームで、日本のボクシングを盛り上げよう」と声をかけたことをきっかけに、このビッグマッチは動き始めた。

 先手必勝――。この時、不意に脳裏をよぎったのが2000年10月11日、横浜アリーナで行なわれた王者・畑山隆則対挑戦者・坂本博之のWBAライト級世界戦である。

 壮絶な打ち合いの末、10回KOで、畑山が“20世紀最後のビッグマッチ”に勝利した。

 この時も、「THE DAY」同様、対戦を呼びかけたのはチャンピオンの方だった。後に畑山が明かした理由はこういうものだった。

「オレは2階級制覇しているのに、ボクシング界には“坂本さんの方が強い”という人が、かなりいた。オレは、それが許せなかった」

 尚弥にも「許せないもの」があったようだ。

「一部に“中谷なら井上に勝てるんじゃないか”という声があった。なめんなよ! という気持ちだった」

 判定は3対0。スコアシートを見ると、ジャッジは3人とも1回から4回まで10対9で尚弥。序盤、互いに有効打は少なかったが、この4つの貯金が明暗を分けた。

 ボクシングの採点基準には、有効打の他に攻勢点や主導権がある。3人のジャッジは先に仕掛ける尚弥の姿勢を評価したのだろう。

 尚弥はリングでも「先手必勝」を貫き、勝利した。

初出=週刊漫画ゴラク5月22日発売号

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