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MLBの“時短策”。薄味の終盤を懸念【二宮清純 スポーツの嵐】

Text:二宮清純

制度導入の効果はてきめんだったが…

 この頃、「タイパ」という言葉を、よく耳にする。簡単に言うと「タイム・パフォーマンス」の略だ。

 もちろん、これは“和製英語”だ。ちなみに「コスト・パフォーマンス」という言葉も、日本以外では、あまり耳にしない。

 タイパとは、要するに、時間をかけた以上は、それだけの成果を得たい――。そういう考え方だ。

 効率的と言えば効率的だが、どこか味気ない。映画『座頭市』で一世を風靡した名優・勝新太郎は「無駄の中に宝がある」という言葉を残している。けだし名言だ。

 またユング心理学の泰斗である河合隼雄は「ゆっくりと寄り道をすればいい。道草の途中には、きっと小さな幸せが落ちている」と語っている。

 米国には「タイム・イズ・マネー」という考え方が根付いている。米国の政治家・物理学者であるベンジャミン・フランクリンが語ったとされる言葉だ。

 日本では「時は金なり」と紹介されることが多い。本来は「時間はおカネと同じくらい貴重なものですよ」という意味だが、近年は「機会損失だけはしたくない」「無駄な時間は使うな」と言った具合に、尖ったニュアンスで使われることが増えてきた。

 こうした世相は、スポーツの現場にも反映される。

 米国を代表する文化であるメジャーリーグは、昨シーズン、“時短策”の一環として、「ピッチクロック」なる制度を導入した。

 ピッチャーは無走者の時、15秒以内に投げなければいけない。走者がいる場合は20秒以内――ざっと紹介すれば、こういうルールである。

 さて、結果は? 導入前の2022年シーズンの平均試合時間(9回)が3時間3分44秒だったのに対し、23年シーズンは、前年より24分も短い2時間39分49秒(9回)。制度導入の効果はてきめんだったと言えよう。

 MLBの試合時間短縮のための努力は多としたい。“野球は間のスポーツ”とは、球界関係者がよく口にするセリフだが、“間延び”のようなゲームも散見された。

 しかし、物には程がある。MLBは今シーズン、走者がいる場合の20秒を18秒に短縮した。これは、やり過ぎだ。

 例えばクロスゲームで9回裏無死満塁の場面を迎えたとしよう。バッテリーとバッター、双方のベンチが静かに繰り広げる“究極の心理戦”が薄味になってしまいかねない。

 ピッチャーが勝負する相手は、時計ではなく、あくまでもバッターであって欲しい。

初出=週刊漫画ゴラク2024年4月12日発売号

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