「料理に愛情は必要なのか?」名作『ザ・シェフ』から学ぶ寂れた大衆食堂を救う“たった一つの隠し味”

「料理に愛情は必要か?」という永遠の問い

プロの料理人にとって、最も重要なものは何でしょうか?

完璧な火加減、正確な包丁さばき、あるいは高価な食材の知識でしょうか。

「技術こそがすべて」と思われがちな料理の世界において、しばしば議論になるのが「愛情の有無が味を左右するのか」というテーマです。

この普遍的な問いに、非常に泥臭く、かつ深い人間ドラマを通して切り込んだのが、名作料理マンガ『ザ・シェフ』の第25話「河岸のチー坊」です。

今回は、作中に登場する寂れた大衆食堂「はるちゃん」の物語から、料理における「愛情」の本質を考えます。


妻の死で「愛情」を失ったおやっさんの料理

築地で働く人々に愛されていた大衆食堂「はるちゃん食堂」。この店は、店主である「おやっさん」が、最愛の妻である「おっかさん」の名前を冠して始めた店でした。かつてのおやっさんはとても優しく、作る料理も温かみに満ちていました。

しかし、おっかさんが亡くなってから、おやっさんの心は荒んでしまいます。 日頃から怒りっぽくなり、それに比例するように「料理にも愛情がなくなったみたい」と、娘のチー坊(千秋)は寂しそうに語ります。

技術や調理器具は変わらないはずなのに、作る人の心が荒むと、料理の魅力は急速に失われ、客足も途絶えてしまう。これは、家庭料理でも、プロの飲食店でも起こり得る「料理の真実」です。


「最先端の技術」と「古き良き食堂」のギャップ

そんな活気を失った食堂を救おうと、若い従業員の新平は必死に抗っていました[7]。 新平は、自腹でフランス料理の本を買い込み、最先端の技術や新しいメニューを取り入れることで店を立て直そうと研究を重ねていました。

しかし、どんなに小難しいフレンチの技術を本から学んでも、おやっさんとの意思疎通がうまくいかず、店の料理に反映されることはありませんでした。

そこに偶然現れたのが、極度の疲労で倒れ、チー坊たちに命を救われた天才料理人・味沢匠です。 味沢は、1回500万円の報酬で、フレンチから和食まであらゆる料理を「完璧な技術」で再現する孤高の男。

一見すると、最も「冷徹で技術至上主義」に見える味沢ですが、彼はこの「愛情を失った食堂」をどう見るのでしょうか。


料理の味を決める「たった一つの隠し味」とは

味沢は「はるちゃん食堂」に運び込まれた際、チー坊たちが運ぶ「カツライスの大盛り」や「刺身定食」といった、泥臭いけれど生活に根ざした大衆料理を目にしています。

どれほど高級なフランス料理であっても、目の前のお客さんを喜ばせたいという「想い」がなければ、それはただの「精巧な食品」に過ぎません。おやっさんの料理から消えてしまったのは、まさにその「目の前の人を喜ばせたい、温めたい」という素朴な愛情でした。

完璧な技術を持つはずの味沢が、この「愛情の消えた食堂」に対してどんな言葉をかけ、どんな料理を作るのか。

第25話「河岸のチー坊①」の結末では、味沢がこの食堂の再建にどう関わっていくのかという期待感で幕を閉じます。

技術を高めることはプロとして当然ですが、その根底にある「食べる人を想う気持ち(愛情)」こそが、冷え切ったスープを温め、寂れた食堂の看板を再び輝かせる最大の「隠し味」なのではないでしょうか。

<第1話:幻の料理人①>を読むにはこちらから
https://love-spo.com/article/the-chef_001

『ザ・シェフ』次回へ続く!

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【書籍情報】
『ザ・シェフ』
原作:剣名舞
劇画:加藤唯史

法外な報酬を要求するが、依頼人の希望に応じて料理を作り上げる天才シェフ・味沢匠(あじさわ・たくみ)の活躍を描いた料理劇画。石油産出国であるパミール王国でその全権を握る大臣は、外務省関係者がもてなす帝都ホテルの晩餐をほとんど食べ残して帰る。そこで「幻の料理人」と呼ばれる天才シェフ・味沢匠が、大臣を満足させる晩餐を作るように依頼されるが、味沢はその報酬として500万円を提示して……!?

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