25年ぶりの歓喜を呼んだ「ナカジマジック」。その背景にあった中嶋聡の「組織を強くする」マネジメント術とは!? ゴジキ氏の新刊『マネジメント術で読むプロ野球監督論』が解き明かす、名将たちの勝負哲学

ベストセラー『データで読む 甲子園の怪物たち』で緻密な分析力を見せつけた野球著作家・ゴジキ氏による最新刊、『マネジメント術で読むプロ野球監督論』が3月18日に発売!

「強いチームを作るための普遍的な方法は存在するのか――。」
組織を率いるリーダー、あるいは結果を求められるビジネスパーソンなら、誰もが一度は抱く問いではないでしょうか。野球界の歴史を紐解き、その答えのヒントを与えてくれる一冊が登場しました。
発売前から重版が決まり、発売後わずか1週間で3刷が決定。予約段階から大きな注目を集めている本書。ラブすぽでは、その中から名将たちの監督論を数回に分けて特別公開します!
今回は、万年Bクラスに沈んでいたオリックスを、就任わずか1年で25年ぶりのリーグ優勝へと導いた中嶋聡氏。一軍と二軍の垣根を取り払い、選手の適性を鋭く見抜く「ナカジマジック」の裏側に流れるマネジメント術を紐解きます。

育てて勝つ改革者・中嶋聡 ――個を活かし、組織を強くする現場術
個を見て、全体を整える。中嶋は〝捕手の眼〞で選手一人ひとりの現在地を見極め、長所を伸ばす起用と明確なフィードバックで組織を再構築した。二軍では「送り出す場」、一軍では「勝ち切る場」と位置づけ、育成と結果を両立させる循環型のチーム運営を実現。攻撃では一気呵成の強攻策を基本にしつつ、状況によっては小技を織り交ぜ、投手陣には疲労を先読みした継投を徹底する。固定と変化のバランスを自在に操り、観察力と判断力でチームを蘇らせた。育成と勝利を融合させた新時代のマネジメント像を示した現場再建術を読み解く。
チームを育てる現場再建術
中嶋の指導者としての歩みは、07年に日本ハムで選手兼任バッテリーコーチに就任したところから本格的に始まった。選手登録を維持しながらも実質的にはコーチ業が中心で、非常時には自ら一軍マスクを被る〝保険捕手〞としてベンチを支えた。この「選手目線と指導者目線の両立」はその後のキャリアに決定的な影響を与える。投手や捕手の状態を肌で感じ取りながら助言を送り、必要であれば自らプレーで補うという姿勢は、後輩からの絶大な信頼につながった。
現役引退後の16〜17年には、日本ハム球団のGM特別補佐としてMLBパドレスにコーチ留学。アメリカの合理的な選手起用、育成プランのつくり方、データに基づく技術指導を吸収したほか、外国人選手のスカウト業務にも携わる。この経験は、中嶋の指導哲学を、単に教えることから、戦力を最大化することへと転換させる大きな契機となった。さらに、トップダウンではなく選手の自主性を尊重するマネジメントの源泉ともなった。その後、18年に日本ハムの一軍バッテリー兼作戦コーチとして現場に復帰したが、同年オフに退団すると、翌年からは古巣オリックスの二軍監督に就任する。
オリックス復帰1年目の中嶋が率いる二軍は、若手を積極的に起用しながらもウエスタン・リーグで勝ち越しの2位という結果を残す。「二軍は一軍へ送り込むところ」という信念のもと、選手の長所を伸ばすことに重点を置き、起用法を工夫しながら実戦経験を積ませていった。ポジション変更や打順の入れ替えなども辞さず、選手の適性を見極めながら配置する柔軟さを見せた。実際のところ、積極起用した杉本裕太郎、宗佑磨、頓宮裕真らが後に一軍で主力として台頭する。
中嶋のマネジメントの柱は「コミュニケーション」である。日本ハム時代から選手兼コーチとして一軍に帯同し続けたことで、選手がどんな場面で不安を抱き、どのような言葉を求めているのかを熟知していた。現役生活29年間で培った人望も厚く、若手選手には失敗を恐れず挑戦させつつ、改善点は明確に伝える〝メリハリ型指導〞を徹底した。就任時に掲げた「誰にでもチャンスを与える」という言葉は、選手のモチベーションを引き出し、二軍全体の士気向上へつながった。
戦術面では、捕手出身らしい洞察力が光る。配球や継投の細かい判断、終盤の代走・守備固めなど「勝負どころを読む力」は二軍監督としても秀逸だった。育成を最優先にしつつも勝利を同時に追求できたのは、状況判断に基づく臨機応変な采配があったからこそである。データ分析を取り入れながら選手の成長と勝利を両立させた点は、単なる育成監督の域を超えた実務能力といえる。
中嶋の指導哲学の核にあるのは「選手の能力をどう引き出し伸ばすか」という考えだ。アメリカ研修を経て、コーチの役割は技術を押しつけることではなく、選手をどう起用するかであると確信した。打撃で光る選手には思い切って打たせて自信を植えつけ、課題を抱える選手には改善点を明示する。スキルだけでなく、勝負どころのメンタルや失敗を切り替える術など精神面の指導にも重きを置いた。
再建の始まりとなった代行采配
こうして二軍を立て直した実績が高く評価され、20年のシーズン途中に一軍低迷の責任を負う形で西村徳文監督が8月20日に辞任すると、後任(監督代行)に抜擢される。就任当初から勝負どころで主導権を握る「先手必勝」の姿勢を強く打ち出した。
一軍においても、若手起用の大胆さと柔軟な選手交代は変わらなかった。4番にプロ2年目の中川圭太を据え、右翼には当時1軍昇格したばかりの杉本を起用するなど、思い切った布陣を敷いた。それまで4番を務めていた元メジャーリーガーのジョーンズをあえてクリーンアップから外す采配は、実績よりも状態や将来性を重視する中嶋の意図が色濃く表れたものだ。
さらに、2軍で指導していた漆原大晟・富山凌雅といった無名の若手投手を勝ち試合の終盤に起用する大胆さは他球団ファンを驚かせた。これも、旧来の年功序列的な起用とは対照的だ。
若い選手をどんどん使って、ダメなら入れ替えるというスタンスを貫いた。逆にいえば、結果を出せない場合には遠慮なく手を打つシビアな起用でもある。この方針に選手たちも応える必要があり、チーム内に緊張感と競争意識が生まれた。ベテランについても例外ではなく、安達了一やT-岡田といった主力にも「今こそチームを引っ張り、監督を助ける存在になってほしい」と期待を寄せた。
投手運用における決断の早さも、中嶋の采配スタイルを特徴づける。たとえ試合途中でリードしていても、ピンチが続けば早めに先発からリリーフへとスイッチする傾向があった。山岡泰輔が6回途中1失点で降板した試合では、山岡本人が「投げ切りたかった」と悔やむ中で、中嶋は「初回からピンチの連続で、バテるのは早いかなと」と早めの継投に踏み切った理由を説明した。
加えて、チームの雰囲気づくりでも違いが見られた。中嶋の就任後は「ベンチで声が出ていて雰囲気がいい」「選手も暗い感じではなかった」と報じられており、低迷するチームに新風を吹き込んだと評価されている。西村時代には大型連敗が続く中でベンチも重苦しい空気に包まれていたそうだが、中嶋は明るさと緊張感を両立させて選手のモチベーションを引き出した。
結果的にシーズン終盤こそ最下位に沈んだものの、翌年以降の黄金期につながる土壌を築いたといえる。ただ、中嶋はシーズン最終戦後のミーティングで「最下位という屈辱だけは忘れずに過ごしてほしい」と選手に訓示し、悔しさをバネに成長するよう促した。この言葉からも、チームの再建と若手育成を並行しつつ、勝利への執念も植えつけるというビジョンが読み取れる。
【書誌情報】
『マネジメント術で読むプロ野球監督論』
著:ゴジキ
原辰徳、落合博満、岡田彰布、伊東勤、栗山英樹、緒方孝市、工藤公康、辻発彦、中嶋聡、高津臣吾、新庄剛志、小久保裕紀、阿部慎之助。
彼らは頑固と柔軟、安定と挑戦、温情と冷徹といった矛盾する問いとどう向き合ってきたか。マネジメントのスタイルは時代を経てどのように変わったのか。強いチームを作る普遍的な方法はあるのか。
『データで読む 甲子園の怪物たち』がヒットした野球著作家が、各監督の特徴を徹底分析。
◎著者プロフィール◎
ゴジキ(@godziki_55)
野球評論家・著作家。著書に『巨人軍解体新書』(光文社新書)、『戦略で読む高校野球』(集英社新書)などがある。『データで読む甲子園の怪物たち』(集英社新書)は発売前重版を記録。
連載実績として「ゴジキの巨人軍解体新書」「データで読む高校野球2022」「ゴジキの新・野球論」などを担当し、現在はサイゾーオンラインにて「ゴジキの野球戦術ちゃんねる」を連載中。
週刊プレイボーイ、スポーツ報知、女性セブン、日刊SPA!、集英社オンライン、現代ビジネスなど各種メディアでの寄稿・取材も多数。Yahoo!ニュースの公式オーサーにも選出されている。
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