25年ぶりの歓喜を呼んだ「ナカジマジック」。その背景にあった中嶋聡の「組織を強くする」マネジメント術とは!? ゴジキ氏の新刊『マネジメント術で読むプロ野球監督論』が解き明かす、名将たちの勝負哲学
育成と勝利を両立させた「ナカジマジック」
21年に監督正式就任後、中嶋は一軍と二軍の垣根を取り払う大胆な人事改革を行う。従来の「一軍コーチ・二軍コーチ」の肩書きを撤廃し、球団全体で選手を指導・育成する体制を築いたのだ。中嶋自身が一軍監督に就任した後も二軍の試合を見て、選手の調子などを把握していた。このユニークな方針により、調子の良い若手を柔軟に一軍起用できるようになり、戦力を総動員して勝利を目指す環境が整備された。
また、オフには能見篤史をコーチ兼任で獲得し、ロメロが2年ぶりに、メジャーにいた平野佳寿も4年ぶりに古巣復帰した。しかし下馬評は低く、その戦力は決して評価されていなかった。
中嶋自身も、固定観念にとらわれない方針を明言した。これはまさに往年の名将・仰木彬の〝仰木マジック〞を彷彿とさせる采配であり、ファンからは〝ナカジマジック〞とも称された。その結果、前年まで最下位に沈んでいたチームを25年ぶりのリーグ優勝に導いた。その背景には、組織横断的な育成と選手起用の円滑化が大きく貢献している。
中嶋がまず着手したのは、打線と守備布陣の立て直しだ。「猫の目打線」と称された仰木時代を彷彿させるほど打線を頻繁に組み替え、143試合で130通りのオーダーを試した。開幕序盤から4番に据えた杉本は本塁打王と大ブレイク。結果が出なくとも杉本の起用を貫く姿勢については周囲からも「よく我慢した」との声が多数上がっており、従来のオリックスにはなかった忍耐の起用法だった。
また福田周平を二塁手から中堅手へ、宗佑磨を外野手から三塁手へコンバートし、俊足巧打の福田と堅実な宗を1・2番コンビに固定。福田―宗―吉田正尚―杉本の上位打線は「福宗正杉」と称される強力な形となり、下位でもベテランの安達了一やT-岡田が復調して勝負強い打撃を発揮した。佐野皓大、紅林弘太郎、太田椋を開幕スタメン起用する大胆な若手登用を行い、特に紅林は、球団史上初めて10代で二桁本塁打を放つまでに成長した。
さらに、外国人の起用法にも創意工夫が見えた。モヤは下位打線に据えて長打力を期待し、メジャーで実績のあるジョーンズはあえて代打専門に回す大胆策を決行した。この結果ジョーンズは代打打率4割超えという驚異的な成績を残し、勝負どころで切り札として機能した。
また、中嶋自身が捕手出身ということもあり、捕手運用にも独自色が出た。この年は若月健矢と伏見寅威(とらい)に加え、打力のある頓宮も含めた3人の捕手併用策を採用。先発投手のタイプに合わせて伏見と若月を併用し、それぞれの長所を活かした。開幕マスクを被った頓宮も、その後は一塁手や指名打者で起用し、その打撃力でチームに貢献。こうした柔軟な起用で全体のパフォーマンスを最大化し、投手を含めた守備陣の安定につなげた。
オリックスの快進撃の原動力は投手陣の充実によるものだったが、その背後にも中嶋の徹底した投手マネジメントがある。
エースの山本由伸は前年8勝止まりから一転、援護にも恵まれて18勝5敗、防御率1.39という圧巻の成績で投手四冠&沢村賞・MVPを独占。2年目左腕の宮城大弥も13勝4敗、防御率2.51で山本に次ぐリーグ防御率2位と大健闘し、二人で貯金22 を稼いだ。田嶋大樹や山﨑福也も自己最多勝利を記録し、後半には山﨑颯一郎や竹安大知ら若手先発も台頭するなど、先発の駒を積極登用して層を厚くしている。
特筆すべきはリリーフ陣の運用で、ヤクルトの髙津と同様に「同じ投手を3連投させない」という方針をシーズン通じて貫いた。中嶋の場合は抑えの平野ですら2連投した翌日はベンチから外す徹底ぶりで、富山凌雅やタイラー・ヒギンス、K-鈴木、山田修義、漆原大晟、比嘉幹貴、能見……と8〜9人の救援投手を状況に応じて分散投入。この起用法のおかげでシーズン終盤になってもリリーフ陣の疲労崩れが起こらず、常にフレッシュな戦力で逃げ切ることができた。チーム最多登板は富山の51試合で、他球団では70試合以上登板する救援投手もいる中では比較的少ない数字である。
そして、中嶋は前年に引き続き日頃から選手に積極的に声をかけ、コミュニケーションを密に取っていた。こうした信頼関係を築くリーダーシップは中嶋の特筆すべき点だ。選手たちも「監督が見てくれている」「期待に応えよう」とモチベーションを高め、チーム全体が一致団結していったのだ。ヘッドコーチに就任した水本勝己や打撃コーチの辻竜太郎ら明るく闘志を前面に出す首脳陣の存在も、雰囲気づくりに寄与した。シーズン当初は目立たなかった盛り上がりが、中盤以降は当たり前となり、連勝街道に乗る原動力になったとも振り返られている。
T-岡田や安達、平野、比嘉らチーム生え抜きのベテランも要所で存在感を発揮。開幕直後に不振で二軍落ちした主将の福田周平に対しても、降格を告げる際に直接「オレはお前を必要としている。必ず必要になる時が来るから、それまでファームでしっかり調整しておけ」と声をかけた。この言葉を受けた福田は決して腐ることなく準備を続け、5月に再昇格すると「1番・中堅」に定着してリーグ優勝への原動力となった。福田自身、「中嶋監督からあの言葉がなかったら今の僕はなかった」と振り返っており、選手の士気を損なわない柔軟な起用とフォローが功を奏した例といえる。
1位で迎えたCSファイナルステージ、ロッテを相手に初戦はエース山本が圧巻の無四球完封勝利。第2戦は先発の田嶋を6回無失点で降板させると、吉田凌、ヒギンス、平野と継投して2試合連続完封。後に響かないようにつなぐ短期決戦流の継投策を徹底し、許した失点は第3戦の3点のみという盤石の投手起用だった。
特に第3戦では、中嶋の終盤の勝負采配も冴えわたった。1点ビハインドで迎えた9回裏のチャンスで、代打起用の小田裕也が初球からバントの構えを見せて相手一塁手を前進させ、次の球でバスターを敢行。猛チャージする一塁手の横を鋭い打球が抜ける劇的な同点タイムリーとなり、3対3の引き分けに持ち込んでCS突破を決めている。この場面について中嶋は「もちろんバントの頭もありましたけど、向こうの守備もありますし、いろいろ考えながら行きました」と振り返った。
日本シリーズではヤクルトに惜敗したものの、多彩な采配と柔軟なマネジメントを披露し、全6試合が2点差以内の接戦と最後まで勝負をもつれさせた。初戦は9回に代打策と積極策で劇的な逆転サヨナラ勝ち。3連敗後の第5戦では8番・二塁に若手太田を初先発させ、ベテラン安達を遊撃に回す大胆な打線改造を断行。この起用が見事に的中し、太田は勝ち越し三塁打、代打モヤも適時打で続く。最後はジョーンズの代打本塁打で接戦を制した。継投面でもリリーフが崩れた第3・4戦の反省を踏まえ、第5戦では6回途中で山﨑福也から吉田凌へスイッチするなど、素早い判断で試合を立て直した。試合展開や相手投手の状態に応じて小技と一発勝負を自在に使い分ける緩急ある采配は、中嶋野球の真骨頂だった。
【出典】『マネジメント術で読むプロ野球監督論』著:ゴジキ
「誰にでもチャンスを与える」中嶋氏の個々のモチベーションを仕組みと対話の両面で最大化するマネジメント術は、組織における再建法としても必ず参考にする部分があるはず。
発売前から大きな反響を呼んでいる本作。その全貌は、ぜひお手にとってお確かめください。
【書誌情報】
『マネジメント術で読むプロ野球監督論』
著:ゴジキ
原辰徳、落合博満、岡田彰布、伊東勤、栗山英樹、緒方孝市、工藤公康、辻発彦、中嶋聡、高津臣吾、新庄剛志、小久保裕紀、阿部慎之助。
彼らは頑固と柔軟、安定と挑戦、温情と冷徹といった矛盾する問いとどう向き合ってきたか。マネジメントのスタイルは時代を経てどのように変わったのか。強いチームを作る普遍的な方法はあるのか。
『データで読む 甲子園の怪物たち』がヒットした野球著作家が、各監督の特徴を徹底分析。
◎著者プロフィール◎
ゴジキ(@godziki_55)
野球評論家・著作家。著書に『巨人軍解体新書』(光文社新書)、『戦略で読む高校野球』(集英社新書)などがある。『データで読む甲子園の怪物たち』(集英社新書)は発売前重版を記録。
連載実績として「ゴジキの巨人軍解体新書」「データで読む高校野球2022」「ゴジキの新・野球論」などを担当し、現在はサイゾーオンラインにて「ゴジキの野球戦術ちゃんねる」を連載中。
週刊プレイボーイ、スポーツ報知、女性セブン、日刊SPA!、集英社オンライン、現代ビジネスなど各種メディアでの寄稿・取材も多数。Yahoo!ニュースの公式オーサーにも選出されている。
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