美しきシンメトリーの裏側。環境問題の影が落とされる世界遺産タージ・マハルのいま【眠れなくなるほど面白い 図解 世界遺産】

10の基準で読み解く「一度は行きたい世界遺産」

10の登録基準に沿って代表的な世界遺産を紹介。景観だけではない、真の魅力が見えてきます。


登録基準(ⅰ)人類の創造的資質を示す遺産

<タージ・マハル> まるで宮殿のような「お墓」

 「タージ・マハル」は、登録基準(i)のみで登録された数少ない世界遺産のひとつです。最大の特徴は、徹底した左右対称のデザイン。近づくと大理石のレリーフや宝石をはめ込んだ象嵌細工、外壁に施されたコーランのカリグラフィなど、繊細な装飾が浮かび上がります。建物はイスラム建築を基調にインドの伝統を融合し、前後左右四面にはペルシア由来のイーワンと呼ばれる尖頭型アーチで囲まれた開放空間が広がります。

 一見、宮殿のようにも見えますが、実はムガル帝国第5代皇帝シャー・ジャハーンが、愛する妃ムムターズ・マハルのために築いた霊廟です。二人は深く愛し合っていましたが、皇帝の遠征に帯同中、妃は14人目の子を出産した後に体調を崩し、36歳の若さで死去。皇帝は2年間喪に服した後、世界各地から白大理石や宝石、腕の良い職人を集め、延べ2万人、22年を掛けて1653年にタージ・マハルを完成させました。皇帝はタージ・マハルの対岸に、自身の黒大理石の霊廟を建てる夢を抱きますが、息子たちの後継者争いにより失脚。晩年は幽閉先のアグラ城(こちらも世界遺産)から妃の眠る霊廟を眺めて過ごしたそう。徹底した左右対称のデザインの中で唯一、非対称なのが棺が安置されている空間です。妃に寄り添うように置かれた皇帝の棺が、愛の結末を静かに物語ります。

【THINK!】人類の傑作を未来に残すために、私たちが優先すべきことは?


【ここがスゴイ!認定ポイント】美しいシンメトリーはまさに「天上の楽園」

 タージ・マハルの美しさを支えているのは、徹底した左右対称です。イスラム建築において均衡の取れた美しい姿は、一神教であるイスラム教における神の秩序の象徴と考えられています。建物と庭を一体で設計し、美しいシンメトリーを描く姿は、イスラム教の聖典・コーランの「天上の楽園」を思わせます。

未来につなぐために「白亜の大理石に環境問題が落とす影」

 タージ・マハルでは深刻な大気汚染により白亜の霊廟が黄ばんでいるほか、隣接するヤムナー川の汚染により大量発生した虫の糞による汚れも深刻化しています。インド政府は近隣での天然ガス以外の燃料の使用や、ヤムナー川での洗濯を禁じるなど規制を強化しています。こうした環境保護の観点からも注目が集まっています。

【出典】『眠れなくなるほど面白い 図解 世界遺産』監修:宮澤 光

【監修者紹介】
宮澤 光(みやざわ・ひかる)
NPO法人世界遺産アカデミー主任研究員。北海道大学大学院博士後期課程を満期単位取得退学。仏グルノーブル第Ⅱ大学留学。2008年より現職。跡見学園女子大学非常勤講師。世界遺産に関するさまざまな書籍の編集・執筆・監修を手掛けるほか、「チコちゃんに叱られる!」(NHK)などの多くのメディア出演や、全国各地で100本を超す講演・講座を実施している。著書に『13歳からの世界遺産』(マイナビ出版)、『世界遺産のひみつ』(イースト・プレス)など。

【書誌情報】
『眠れなくなるほど面白い 図解 世界遺産』
監修:宮澤 光


【Amazonで購入する】
【DMMブックスで購入する】

観光地としてではなく“教養としての世界遺産”を知る1冊!

世界遺産の魅力は「美しい」「すごい」といった見た目の偉大さだけでなく、
長い年月をかけて育まれてきた地球の歴史や人類の営み、
知恵、祈り、そして時には痛みや葛藤までもがさまざまな形で刻まれていること。

それらが教えてくれるのは、
宗教や価値観の違い、自然の力、人間の創造性などを通して、
地球がどれほど多様で豊かな場所であるか、
また同時に、戦争や環境問題、観光のあり方など、
今この瞬間にも世界が直面している課題です。

なぜその場所が世界遺産に選ばれたのか。
そこにどのような時間が流れ、何が「守るべき価値」とみなされたのか。
世界遺産に登録された背景を知ることは、
私たちが世界を理解し、学ぶための重要な手掛かりになるはずです。

本書では、登録基準やテーマごとに世界遺産の魅力を紹介するとともに、
・世界の多様性に気づく
・世界の成り立ちをつかむ
・世界の課題を見つめる
という3つの視点で、
世界遺産の成り立ちや背景、守り続ける難しさや課題について紐解きます。

読み進めるうちに「世界を見る目」が変わり、世界がぐっと身近に感じられる――
そんな、教養としての世界遺産への旅を始めてみましょう。

この記事のCategory

オススメ記事

世界遺産を「短期的な経済効果」だけで狙うと大失敗する!? 遺産を守る本当の目的とは【眠れなくなるほど面白い 図解 世界遺産】

なぜ首里城は「火災で焼失」しても世界遺産から消えなかったのか 「登録を維持できる遺産」の判断基準とは?【眠れなくなるほど面白い 図解 世界遺産】

【世界遺産の評価基準】知名度よりも重要な「OUV」とは?人類共通の宝物を決める仕組み【眠れなくなるほど面白い 図解 世界遺産】

なぜ山なのに「文化遺産」なのか?富士山の登録理由から学ぶ、世界遺産の複雑すぎる評価基準【眠れなくなるほど面白い 図解 世界遺産】

世界でたった3件だけ!「人類の創造的資質」という究極の基準1つだけで登録された超レアな世界遺産とは?【眠れなくなるほど面白い 図解 世界遺産】

ウクライナの遺産やウィーンも。世界遺産が直面するイエローカード「危機遺産リスト」とは?【眠れなくなるほど面白い 図解 世界遺産】

世界で年間最大35件まで!世界遺産新規登録の審査数に「厳しい上限」が設けられているワケ【眠れなくなるほど面白い 図解 世界遺産】

準備だけで億単位のコストも!? 華やかな世界遺産登録の裏にある、あまりに過酷な「カネと時間」の現実【眠れなくなるほど面白い 図解 世界遺産】

求人情報

インフォテキストが入ります