ニットデザイナー・今井昌子さん。朝5時の朝日から始まるものづくり。「今を生きる」しなやかな手仕事と日常|atelier masakoのニット【後編】

『atelier masakoのニット』の著者・今井昌子さんのインタビュー、後編。作品誕生のエピソードや偶然が生んだ美しいシルエット、そして朝日とともに始まる毎日を伺いました。81歳の今も編み続ける今井さんの言葉は、手編みファンのみならず、毎日を豊かに過ごしたいすべての人へのエールに満ちています。

――本書『atelier masakoのニット』の中で、特に思い出深い作品や誕生エピソードがあれば教えてください

今井昌子先生(以下、今井):「構築スリーブのプルオーバー」(P.6)ですね。

実はこの作品、サークル仲間が試作を編んで持ってきてくれた時、「先生、これ形がちょっとどうかなぁ?」と言われたんです。アームホールが小さめだったから。ですが、私が実際に袖を通して鏡を見てみたら、立体的なボリュームと肩から袖への落ち感が絶妙で、面白い! と思って。

「ペケ(ボツ)にされても作品は私が買い取るから、絶対このまま行こう!」と押し切ったんです(笑)。

編み物は頭で計算するだけでなく、実際に編んでみてはじめて生まれる偶然の発見があるからこそ、50年やっていても飽きることがありません。

今井さんのアトリエにて。本書に掲載した作品たち。

担当編集:この作品はとても新鮮さを感じました。従来の手編みのレシピにはあまりないシルエットで、このプルオーバーが持つ立体的なフォルムとモードな佇まいは圧倒的でした。

今井先生のグラフィックデザイナーならではの美学が、手仕事と調和して生まれた一着だと思います。

本書の掲載作品のラフスケッチ。左は構築スリーブのプルオーバー、右は表紙を飾ったコンパクトアランセーター。
左はチェリーのトップダウンセーター、右は淑女のシクラメンショール。

――表紙カバーを飾っている白色の「コンパクトアランセーター」については、いかがですか?

今井:実は撮影の時、この作品がカバーになるとは思っていなかったので、決まった時は少し驚きました。でも、アランニットが大好きな方に、「あ、編んでみたい!」と直感で手に取っていただける表紙になって、本当にうれしかったですね。

アランニットといえば永遠の定番ですが、ハニカムやケーブルなどの細やかな模様を贅沢に取り入れつつ、シェットランドウールで編むことで驚くほど軽く仕上げています。

重くて肩が凝る従来のアランセーターと違って、コートの下にもスッキリ着られるコンパクトなサイズ感が自慢です。

担当編集:窓辺の自然光の中でアラン模様の立体感が美しく際立った一枚です。撮影させていただいた神戸の歴史ある建築ならではの壁や光の質感も含め、クラシカルで洗練された雰囲気が漂っており、「この一冊が届けたい世界観にぴったり」と考え、表紙(キービジュアル)に選びました。

朝5時の習慣と「今を生きる」人生哲学

――81歳の今も、大変お元気でパワフルに活動されていますね。

今井:いちばんの健康法は「朝早く起きること」です。今は朝5時頃、日が入ってくる時間に起きて、京都の街を一望できる近くの丘で朝日を拝むんです。

それから朝の清々しい空気の中で編み物をしたりデザインを考えたり、午前中だけでも驚くほど仕事が進みます。

それに、蛍光灯の下で夜更かしをして編むのは目に負担がかかりますでしょう?

最近の若い方はお仕事もなさっている方もいらっしゃるでしょうし、夜家へ帰ってテレビや映画を見ながら編む方が多いようですが、健康と目のことを考えたら、絶対に、朝の自然光の中で編む「朝活」をおすすめしたいですね。

朝の光の中で編むと電気もいりませんし、目にも心にも本当に良いんです。私も若い頃は夜型でしたが、これは50年編み物と向かってきた私の結論です。

壁一面に控える糸たち。作品に必要な材料メモが添えられている。

――本書を制作する期間中、こころがけていたことがあったそうですね?

今井:この本を出すと決めてからの約10か月間は、私の人生に予期せぬ大きな挑戦の時間でした。デザインや作品のアイデアを考える役割は自分一人しかいませんから、もし私が1日でも寝込んだら、全体の段取りやスケジュールがすべて狂ってしまう。

「絶対に倒れられない、風邪ひとつ引けない」という強い覚悟と緊張感がありました。自分の体調管理を徹底し、早起きして朝日を浴びる生活を守り抜きました。

この挑戦のおかげで「今を大切に生きる」という気持ちが鍛えられたと思います。

――最後に、編み物を始めたい方や再開したいと考えている方へメッセージをお願いします。

今井:手編みは、布地と違って失敗しても、糸をほどいて何度でもやり直せます。どこへでも持ち歩ける手軽さがあります。最初は思い通りにいかなくて嫌になることもありますが、「そういう世界なんだ」と割り切って、気長に糸と針を持ち続けてみてください。

愛用の針たち。
今井さんが描いたパステル画。

今井:編み物をしていると、思い通りにいかないことも、想像以上の形ができあがる感動も、編めば編むほどたくさんあります。でも、そのすべてを、私は「編み物の神様」と共に生きている心地なんです。

今の生活は編み物が中心です。編み物があって自分が存在する。だからこそ、失敗も偶然の発見も素直に面白がることができます。

一度身につければ一生楽しめますし、日々の豊かな息抜きになります。自分のペースで “人生の相棒” として楽しんでもらえたらうれしいですね。


今井さんのパワフルなお人柄と軽快なおしゃべりに、取材の時間があっという間に過ぎていきました。関西在住のニッターさんに朗報です!2027年1月からヴォーグ学園心斎橋校で、今井さんのニット講座が始まります。今井さんのオジリナル作品を編みながら、編み物のテクニックが学べます。ぜひご参加ください。

講座の詳細は、下記URLをご参照ください。

ヴォーグ学園心斎橋校「今井昌子のニット」
https://www.voguegakuen.com/

【書誌情報】
『atelier masakoのニット』
著者:今井昌子


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ニット作家 今井昌子さん初の著書。ベーシックなテクニックで編める、大人のデイリーウェア&小物17型。かぎ針編みと棒針編みで、軽くて着やすく、洗練された春夏・秋冬のニットを掲載。

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