ニットデザイナー・今井昌子さん。75歳からのSNS、81歳で初の著書。モードな感性と挑戦|atelier masakoのニット【前編】

約50年近くニットサークルを主宰し、手編みの魅力を届けてきたニットデザイナーの今井昌子さん。81歳にして初の著書『atelier masakoのニット』(日本文芸社)を上梓した今井さんの作品は、モードな感性にあふれています。30歳での編み物の出会いから、グラフィックデザインの視点を活かした独自の美学、そしてSNSが紡いだ出版までのお話を伺いました。前後編でお届けします。

――81歳にして初の著書出版、誠におめでとうございます。編集者からオファーが届いた時の率直なお気持ちをお聞かせください。

今井昌子先生(以下、今井):最初にお話をいただいた時は本当に驚いて、著者本を出すのは遠い世界のように感じ、一度はお断りしようと思ったんです。

でも、約50年間一緒に手編みを楽しんできたサークルの仲間に話しましたら、「今なら私もお手伝いできるから、絶対に引き受けて!」と背中を押してくれたんです。仲間の一言がなかったら、この本が形になることはありませんでした。

渡月橋を望む、京都嵐山の袂。

――刷り上がったばかりの書籍を手にして、いががですか?

今井:出来上がった本を見せていただて、本当に感激しました。一冊の本に向き合って作り上げていくという経験がないものですから。

――長年、雑誌や書籍への作品掲載などはされてきましたが、ご自身の著書として一冊の形になった喜びはまた特別だったのではないでしょうか。

今井:
そうですね。ただ、著書として私の名前がついてはいますけれど、私一人の力で本を出したという感覚ではないんです。長年、手編みサークルの仲間たちやご縁のあった方々と一緒に手を動かし、続けてきた歩みのなかで生まれた一冊ですから。みんなとの繋がりや流れがあったからこそ出来上がった本なのだと、改めて感謝の気持ちでいっぱいになりました。

著書をはじめて手にした今井さん。

――Instagramは75歳の頃から始められたそうですね。

今井:
ええ、最初は「らくらくホン」から始めました。私の作品の編み物キットを購入された方が、「編めなくて困っているんじゃないかしら」と思い、少しでも編み方のコツやサポートになればと投稿し始めたのがきっかけです。キットは高額ですから。自分のためというより、編み物好きの方に役立ちたいという思いだけで続けてきました。 当時は「らくらくホン」を使っていました。新しいスマホを買い替えるときに、ショップの店員さんから「らくらくホンで、インスタをやるなんてすごい!フォロワーが500人も!(当時)」と驚かれました(笑)。

グラフィックデザインから生まれた「描くように編む」独自の美学

――今井先生の作品は、伝統的な手芸の観念にとらわれない、軽やかさもあって、モードなデザインが印象的です。デザインのルーツはどこにあるのでしょうか?

今井:
30代前半で編み物の学校に通う前は、グラフィックデザインやディスプレイの仕事に携わっていました。昔の大阪万博(1970年開催)の時代には図面を書いたりして大忙しの日々を送っていたんです。

私の出発点は服飾や手芸ではなく、頭の中に図面やスケッチを描き、そこに色や色彩をのせていくというデザインソースなんです。若い頃から美術館に通うのが好きで、当時からコム・デ・ギャルソンやヨウジヤマモト、イッセイ ミヤケといったモードの世界からも強い刺激を受けてきましたね。

――なるほど。デザインのお仕事やモードの時代のご経験があるからこそ、トレンド感のあるデザインが生まれるのですね。

今井:ええ。そうかもれしれませんね。

――また、複雑な技法を取り入れず、「編みやすさ」と「着やすさ」を大切にされているように感じます。

今井:そうですね。誰でも編めるように、シンプルでわかりやすいレシピになるよう工夫しています。今の時代は、教えてくれる人が近くにいるとは限らないですからね。 軽さだったり、洋服との合わせやすさだったり、日常のなかで気持ちよく着られることを第一に考えています。

軽さだったり、洋服との合わせやすさだったり、日常のなかで気持ちよく着られることを第一に考えています。

――手編みのニットは重くなったり肩が凝ったりしがちですが、今井先生のニットは驚くほど軽やかです。

今井:
いくら素敵な模様でも、重くて着心地が悪かったら日常で着なくなってしまうでしょ。私にとって編み図、レシピは「絶対にこの通りに」というマニュアルではなく、着る人が糸や色を変えたり、丈を伸ばしたりして自分らしく楽しむための「ヒントやアイデアの卵」なんです。型にはまらず自由に、着ていて心が躍るようなニットを楽しんでもらえたらいちばんうれしいですね。

――Instagramで読者やフォロワーの方が、アレンジしたニットをご自身の服と合わせたコーディネートを見せてくださるのもうれしいとお話しされていましたね。

今井:そうなんです!

みなさんが私のデザインしたニットを編んでくださって、ご自身の服と上手に合わせて素敵なコーデをインスタに投稿してくださるのを見ると、もううれしくて楽しくて。

レシピをただ真似するだけでなく、ご自分の日常のファッションとして自由に着こなしてくださっている姿を見るのが、今の私にとっていちばんのよろこびであり、編み物を続けていく大きなパワーになっています。


手芸の枠にとらわれず、グラフィックデザインの感性とモードな美学をのせて、編む人と着る人の自由な楽しみへと広がっていく今井昌子先生のニット。思いもしなかった打診と、サークルの仲間の後押しから誕生した『atelier masakoのニット』は、SNSを通じて多くの人々に手編みの温もりと「着る楽しさ」を届けています。

後編は今井先生のアトリエでお話を伺いました。ぜひご覧ください。
▶後編へ

【書誌情報】
『atelier masakoのニット』
著者:今井昌子


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ニット作家 今井昌子さん初の著書。ベーシックなテクニックで編める、大人のデイリーウェア&小物17型。かぎ針編みと棒針編みで、軽くて着やすく、洗練された春夏・秋冬のニットを掲載。

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