【コラム】「14敗」の世界王者 ガッツ石松の教え【二宮清純 スポーツの嵐】

ガッツさんのお人柄をしのぶ

 さる6月2日、肺炎のため76歳の生涯を閉じた元WBC世界ライト級王者・ガッツ石松(本名・鈴木有二)さんの「お別れの会」が9月2日、東京・後楽園ホールで営まれ、私も出席した。

 通常、この手の会は「しめやかに」営まれるものだが、笑いをこらえるのに苦労した。

 元世界王者や芸能人が、この日のために用意した追悼の言葉は、どれもガッツさんの人柄をしのばせるものだった。

 まずはガッツさんのヨネクラジムの後輩にあたる元WBC・WBA世界ミニマム級王者の大橋秀行さん。

「ワンツーの打ち方を教えてやる、と言われ、構えると“両手を出せ!”。まったく意味がわからなかった」

「僕の世界戦のテレビ解説をしてくれたのもガッツさん。ビデオで観ると、“井岡(弘樹)、手を出せ!”。ガッツさん、僕は大橋です」

 続いて、同じくヨネクラジムの後輩で元WBC世界ライトフライ級王者の中島成雄さん。

「先輩は、夜中でも電話をかけてきた。“夜の1時だけは勘弁してくださいよ”と言うと、“いや、オレは今起きたばかりだよ”」

 タレントのはなわさんは、ガッツさんとマレーシアを旅行したことがある。機内で寝ていたガッツさん、突然目を覚ますと、こう言った。

「いやぁ、でこぼこ道は揺れるなァ」

 黒のネクタイ姿で「伝説の男 ビバガッツ」を熱唱した。

 私にも経験がある。数年前、ある月刊誌で対談した。聞き忘れたことがあったので、翌日電話した。

 開口一番、ガッツさんは言った。

「いやぁ二宮さん、久しぶりだねェ」

 私は心の中でつぶやいた。

「ガッツさん、昨日お会いしたばかりですけど……」

 真面目な話も書いておきたい。強豪ぞろいの世界ライト級で5度の防衛を果たしたガッツさんは、日本ボクシング史に残る名ボクサーである。それは疑いの余地がない。

 その一方で、14敗もしている。日本人の世界王者では、16敗の花形進に次いで多い。

 これについて問うと、ガッツさんは涼しい顔で答えた。

「減量に失敗すると、後半、足が動かなくなる。そういう時は早く負けて、体力の回復に努めた方がいいんだよ。まだ次もあるんだからさ」

 不利な戦いでも早々に音をあげず、朽ち果てるまで戦い続ける。それこそがボクサーの本懐とされた時代、ガッツさんは時流に抗い、常に先のことを考えていた。そう、何事も次があるのだ。実は教わることの多い人だった。

初出=週刊漫画ゴラク10月9日発売号

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