【不登校・引きこもり・発達特性】子どもとの対立を避ける「選択」のコミュニケーションとは

わが子の不登校や発達特性に強い不安を抱き、親自身が問題に飲み込まれて身動きが取れなくなるケースは少なくありません。孤独な悩みを客観視するための「親の会」などの重要性や、親子間での不毛な「白黒対立」を終わらせ、子ども自身の自発的な自立を促すための「4つの選択肢(メニュー)」を使った対話法を紹介します。
――不登校や引きこもり、発達特性やHSP傾向のある子どもを前に、「このままで大丈夫だろうか」と強い不安を抱え、問題そのものに飲み込まれてしまう親御さんは少なくありません。こうした状況で、親はどのような「心理的境界線(バウンダリー)」を意識するとよいのでしょうか。
長谷川先生:まずはひとりで抱え込まずに、不登校などの親が集まる「親の会」などに参加してみることをおすすめします。自分だけの1つの経験にとどまらず、他の親御さんの多様なあり方に触れることで、状況を「相対化」し、自分自身を客観視できるようになります。
「学校に1日も行かなくても、家で受験勉強をして希望する大学に進学した子もいるんだ」といった事実を知るだけでも、親の凝り固まった不安がぐっと和らぎます。学校へ行くことだけがベストではないと気づけるのですね。
――ひとりで悩んでいると、視野が狭くなって、頑なになりがちです。
長谷川先生:その通りです。ひとりで悶々と悩んでいると、親御さんたちは知らず知らずのうちに、自分にとって都合のよい情報ばかりを集めてしまうんです。そして、それを「絶対にこうでなければならない」という頑なな「信念」にしてしまいます。
例えば、ある特定の先生の本を読んで「そうだ、そうだ」と共感したとしますよね。すると、その本に書かれている自分に都合のよい一部分や、特定のお気に入りの言い回しだけを都合よく切り取ってきて、「ほら、だから私のやり方は正しいでしょ!」と、自分のストーリーを補強するためだけの材料にしてしまうんです。
――よかれと思って勉強しているはずなのに、かえって自分を頑固に縛りつけてしまうのですね。
長谷川先生:たとえ別の著名な専門家がまったく異なる、より柔軟なアプローチを提唱していても、「この本にこう書いてあるんだから!」と一歩も譲れなくなってしまう。そうなると、バウンダリーが硬直し、かえって問題をこじらせてしまうのです。
だから私は、相談に来られる親御さんにはよく「ひとりで勉強して、ひとりで評価するのはやめましょう」と提案します。自分だけのストーリーに執着せず、一歩外に出て多様な考え方に触れ、頑なになった『信念』を少しずつ緩めていくことが大切なんです。
――なるほど。親子間で「学校に行くか、行かないか」といった白黒の二者対立でぶつかってしまうのも、そうした頑なさ、固執が原因でしょうか?
長谷川先生:まさにそうです。親子が「行く・行かない」の二者対立(白黒思考)でぶつかると、家庭内は常にガチンコ勝負の緊張状態になってしまいます。
そんなときは、二者対決にするのではなく、複数の選択肢、例えば「これもある、あれもある、それもある」と複数の選択肢を用意するんです。親が解決を急いで正論を押し付けるのではなく、子どもに「選択肢(メニュー)」を提示してあげることが大切なんです。
――対決ではなく「選択」にするのですね。
長谷川先生:その通りです。二者対立ではなく、4択くらいのメニューを提示します。例えば、「こういう道もある、これもできる、あるいは少しハードルを下げて、これくらいならお母さんお父さんも受け止められるかも」というように、いくつかの選択肢を並べるんです。
そして、その中から子ども自身に「選択」という自己決定を任せます。親が「これにしなさい」と答えを押し付けるのではなく、子どもが自分の意思で選ぶ。この「選択のコミュニケーション」こそが、家庭内の不毛な対立を防ぎ、子どもの安心感と自立を育んでいくのです。
じつは、部下から慕われて、信頼される有能な管理職を調査したときも、部下の考え方を対決で潰さず、背景を聞いた上で選択肢を提示して視野を広げてあげられる人が上位でした。
家庭でも同じです。ひとりで抱え込まず、誰かに話して選択肢を持つことが、安心できる関係を保つ秘訣です。
【書誌情報】
『しんどい人間関係に境界線をつくる 心地いいバウンダリー』
著者:長谷川俊雄
「頼まれると断れない」「相手の機嫌に振り回される」「自分ばかり我慢してしまう」――そんな人間関係の悩みは、バウンダリー(境界線)の乱れが原因かもしれません。
本書は、「からだ」「感情・意志」「責任」「時間」「お金」の5つの視点からバウンダリーをわかりやすく解説し、仕事や家庭で今日から実践できる具体的な対処法を紹介。「NO」と伝えるコツや適切な距離の取り方を身につけ、自分も相手も尊重しながら、安心・安全で心地よい人間関係を築くための一冊です。
【著者紹介】
長谷川俊雄(はせがわ・としお)
白梅学園大学名誉教授、社会福祉士、精神保健福祉士、NPO法人つながる会代表理事、social work lab MIRAI代表。
1981 年から横浜市役所の社会福祉職として現場で活動したのち、精神科クリニックのソーシャルワーカーに転職。その後、愛知県立大学での教員経験を経て、2009年に「NPO 法人つながる会」を設立。2010年から白梅学園大学に移り、教育・実践・政策提言に携わる。2023年に「social work lab MIRAI」を開設し、援助職支援や家族支援にも取り組む。「バウンダリー」についてのワークショップを各地で行っている
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