お中元は「魂のデリバリー」だった!? 民俗学から学ぶ日本的ギフトコミュニケーションの正体【眠れなくなるほど面白い 図解 民俗学の話】

【「日本民俗学」の基礎知識】日本人の生活を規制する「つきあい」の型

お中元・お歳暮は霊力・霊魂の贈答手段

日本の伝統文化の中には、特徴のある「つきあい」の型があります。たとえば、日本の伝統社会では贈答の慣習が色濃く存在しています。歳末や正月、盆など1年の折り目ごとに行われているほか、出産祝いや婚礼、葬儀などの人生儀礼のおりや、新築や病気、旅行といった臨時の機会にも、贈答が行われています。こうした贈答の原初的な形態は、日常的につきあいのある者たちが集まり、共食することで結束を強めようとしたことにあるとされ、現代の香典や祝儀に食品が多いのは、その名残と考えられています。

また、贈答には、相手に負い目を感じさせ、返礼の義務を生じさせることでやり取りが繰り返し行われるようにし、関係性を維持するという側面があります。その点、食品は消費されるものであるため、この負い目が重くなりすぎず、贈答を続けやすいという利点もあります。

なお、お中元やお歳暮は、霊力や霊魂が衰える季節の変わり目に、自分の霊力・霊魂を分割して献上する行為であったとも考えられています。お中元やお歳暮は、基本的には目下の者から目上の者へ贈られます。受け取った側の霊力・霊魂は強化され、その後、目下の者へと再分配されます。つまり、お中元・お歳暮は、集めた富を改めて分け与えるような形で支配・服従の関係を築く「霊力・霊魂の贈答手段」でもあったのです。

「つきあい」の方法

贈答

もらいっぱなしは負い目(借り)となり、力関係の不均衡を生むため、同等のものを返すことで対等な関係を維持する。

挨拶

つきあいのあらゆる場面に見られるもっとも基本的な行為。境界を越えるための儀礼としての意味も持つ。

訪問

訪問先で飲食を共にすることで結びつきを強める。外部からの訪問者を「マレビト」として神聖視し、手厚くもてなす文化もあった。

互助協力

個人の力では遂行が難しい労働を共同で行う仕組み。贈答や饗応と並び、互いの絆を深める重要なつきあいの1つ。

饗応

飲食を共にする「共食」の場。酒食を振る舞うことで主人の社会的地位を確認し、集団の結束力を高める意味合いがある。

【出典】『眠れなくなるほど面白い 図解 民俗学の話』監修:島村恭則

【監修者紹介】
島村恭則(しまむら・たかのり)
民俗学者。関西学院大学社会学部長・教授。1967(昭和42)年、東京都生まれ。筑波大学大学院博士課程歴史・人類学研究科単位取得退学。文学博士(筑波大学)。国立歴史民俗博物館教官、韓国・翰林大学校客員教授、東京大学客員教授などを歴任。日本各地で民俗学調査を行うとともに、韓国・中国での調査・研究も行う。
近年は、世界民俗学史をふまえた民俗学理論の研究、とくに民俗学を国際的・学際的な「ヴァナキュラー文化研究」として再編成する議論を展開している。
著書に『みんなの民俗学 ヴァナキュラーってなんだ?』(平凡社)、『民俗学を生きる ヴァナキュラー研究への道』(晃洋書房)、『これからの時代を生き抜くための民俗学入門』(辰巳出版)、『昔話の民俗学入門 民間伝承の秘密を読み解く』(創元社)、編著に『現代民俗学入門 身近な風習の秘密を解き明かす』(創元社)などがある。

【書誌情報】
『眠れなくなるほど面白い 図解 民俗学の話』
監修:島村恭則


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現代の社会を知る上でも重要な学問ともいわれる「民俗学」。
そもそも「民俗学」とは「民」(=人々)について「俗」(=ヴァナキュラー)の視点で研究する学問であり、日本においては、春夏秋冬の年中行事や風習から、身近な衣食住の伝統や習慣など、都市や地方のあらゆる「文化・もの」について、歴史や謂われ、理由などが存在する。
本書では、現代にも繋がる礼儀やしきたりや祭祀、文化や風習、民間伝承、芸能、文化遺産から、昔話、怪談、(都市)伝説、B級グルメ、ネットミーム、パワースポット、七不思議伝と言われるものまで幅広く取り上げ、「現代民俗学」としてあらゆるジャンルについてわかりやすく紹介、解説する。

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