世界遺産はなぜテロや紛争の標的にされるのか?人類共通の宝物が狙われる「4つの残酷な理由」【眠れなくなるほど面白い 図解 世界遺産】

「人類共通の宝物」を私たちはどう守るか?

 「人類共通の宝物」である世界遺産は、注目度が高いからこそ紛争の中で政治的・宗教的なアピールに使われてしまうことがあります。2001年には、タリバン政権がアフガニスタンの「バーミヤン渓谷の文化的景観と古代遺跡群」にある2体の大仏を破壊しました。バーミヤン渓谷はこの破壊を受け、2003年に緊急的登録推薦という、通常より迅速な手続きで世界遺産となり、同時に危機遺産リストにも記載されました。失われたものはもとに戻りませんが、さらなる破壊を防ぐための国際的な意思を示す登録でもありました。

 紛争時の文化財保護については、1899年に万国平和会議で採択され、1907年に改訂されたハーグ条約の中のハーグ陸戦条約が始まりです。文化財をできるだけ攻撃対象にしないこと、さらに包囲や砲撃の際には文化財を標識で示し、攻撃を避けるため事前に通告することが定められました。また、1935年にロシアの画家ニコライ・レーリッヒの呼びかけにより「レーリッヒ条約」が締結され、1954年には「武力紛争の際の文化財の保護に関する条約(ハーグ条約)」へと受け継がれていきます。今もユネスコが紛争のたびに順守を呼びかける基本理念ですが、批准国の偏りや実効性などの課題は残ります。

 私たちは、ニュースの現場から物理的・心理的な距離が遠いほど、怒りや悲しみが薄れがちです。もちろん、世界中の出来事に平等に関心を持つことは難しいですが、それでも意識的に世界に目を向け、関心を持ち続けることはできます。世界に向ける私たちの眼差しもまた、世界遺産の保護の力になり得るのです。

文化財保護の歴史

1931年 アテネ憲章

保存・修復の基本姿勢を国際的に整備。

1935年 レーリッヒ条約

戦時であっても文化的・歴史的建造物を尊重する理念。

1954年 武力紛争の際の文化財の保護に関する条約(ハーグ条約)

戦争から文化財を守るための国際ルールを本格的に整備。

1964年 ヴェネツィア憲章

平時の保存・修復の原則を更新し、「真正性」につながる考え方の土台に。

1972年 世界遺産条約

文化遺産・自然遺産を「人類共通の宝物」として国際協力で守る枠組みを制度化。

1999年 ハーグ条約 第二議定書

実効性を強化。強化保護や重大違反への措置などを追加。


世界遺産はなぜ狙われるのか

象徴の破壊

共同体の歴史や信仰の象徴を壊し、精神的な打撃を与えるため。

政治・宗教的アピール

新たな権力や思想を示し、過去の権威や他宗教の象徴を否定するため。

宣伝効果

世界的な注目を集め、存在や主張を強く印象付けるため。

略奪・資金源化

遺物を密売し、活動資金を得る手段とするため。

【出典】『眠れなくなるほど面白い 図解 世界遺産』監修:宮澤 光

【監修者紹介】
宮澤 光(みやざわ・ひかる)
NPO法人世界遺産アカデミー主任研究員。北海道大学大学院博士後期課程を満期単位取得退学。仏グルノーブル第Ⅱ大学留学。2008年より現職。跡見学園女子大学非常勤講師。世界遺産に関するさまざまな書籍の編集・執筆・監修を手掛けるほか、「チコちゃんに叱られる!」(NHK)などの多くのメディア出演や、全国各地で100本を超す講演・講座を実施している。著書に『13歳からの世界遺産』(マイナビ出版)、『世界遺産のひみつ』(イースト・プレス)など。

【書誌情報】
『眠れなくなるほど面白い 図解 世界遺産』
監修:宮澤 光


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