実家の親がしんどい。親子関係をラクにする「境界線(バウンダリー)」の引き方

実家の親からの過干渉や、一方的に感情をぶつけられることに悩んでいませんか。
家族だからこそ真正面から向き合おうとすると、つい感情的になってしまいがちです。「わかってほしい」という思いが、かえって相手を頑なにさせ、関係をこじれてしまうことも少なくありません。
そんなときに役立つのが、自分も相手も尊重しながら、安心できる距離感を築く「バウンダリー(境界線)」という考え方です。
書籍『しんどい人間関係に境界線をつくる 心地いいバウンダリー』の著者であり、46年間ソーシャルワーカーとして多くの家族と向き合ってきた長谷川俊雄先生に、親との適切な距離感を保ちながら、自分を守るための「境界線(バウンダリー)」の上手な引き方について伺います。
――さっそくですが、実家の親が感情的になって過干渉してくる、という悩みをよく聞きます。長谷川先生は著書『しんどい人間関係に境界線をつくる 心地いいバウンダリー』のなかで、「手紙やメール」が有効とありますが、なぜ言葉の会話よりも効果的なのでしょうか?
長谷川先生:家族だからこそ、これまでの関係性やバウンダリー(境界線)の引き方が染み付いています。面と向かって話し合おうとすると、感情的になって言いたいことが言えなくなったり、誤解されたり、お互いに緊張して傷つけ合ってしまったりします。
――確かに、顔を合わせるとつい感情的になってしまうことも。
長谷川先生:言葉による会話は、どうしても瞬時に感情が入ってしまいます。そこでおすすめしたいのが「手紙」という間接的な文章ベースの手段です。
文章を書くことで、自分の心をじっくり向き合えますし、一度書いて読み直し、推敲することができます。そうすると、相手を非難せずに、自分が本当に伝えたいメッセージやバウンダリーの提案を冷静に、そして明確に届けることができます。
――確かに手紙なら、途中で遮られることもなく、自分の意思を最後まで伝えられますね。手紙を書くときに気をつけるべきポイントはありますか?
長谷川先生:主語を「私( I )」にすることです。これを「アイ・メッセージ」と言います。
例えば「あなたは過干渉だ」といった「You メッセージ」で相手を主語にすると反発を招きます。批判したり、責めたりするのではなく、「私はその言葉を言われると悲しい」といった「I メッセージ」で、自分の気持ちだけを伝えます。主語を「私」に限定して相手へのジャッジ(裁き)を一切排除すると、相手は責められていると感じないため、素直に「ごめん」と言いやすくなるんですね 。
――主語を自分にするだけで、受け取り手の態度がそんなに変わるのですね!
長谷川先生:ええ。じつはこれは、親子関係だけでなく夫婦間でも非常に有効なんですよ。
我が家では、不満はメモや手紙で伝えています。かれこれ42年間続けていますね。お互いに引き出しに何種類もの便箋と封筒を常備していて、妻からの手紙を見つけると背筋が凍りますが(笑)、私を主語として書かれているので素直に「ごめん」と言えます。
――「私」を主語にすることで、相手の境界線を侵害せずに自分の気持ちを明確化するのですね 。ご自宅でのコミュニケーションにホワイトボードを活用されているとお聞きしました。
長谷川:リビングにA2サイズのホワイトボードを置いています。1週間の帰宅時間や夕食の有無を可視化しています。玄関先で「今日何時に帰る?ご飯いる?」と確認し合うのは、気持ちのよい朝の時間に勿体ないので。
――慌ただしい朝の確認はイラ立ちの元になりますね。
長谷川先生:だから玄関は「行ってらっしゃい」「お帰りなさい」という挨拶優先の原則にして、確認はボードで自動化する。お互いに感情の余裕を持つための大切な境界線です。
――なるほど!家族みんなが気持ちよく過ごせる工夫ですね。一方で、親と距離を置くことに「親不孝だ」と罪悪感を抱いてしまう人には、何から始めてほしいですか?
長谷川先生: それは「私は親不孝なダメな子」と自分で自分に自己ラベリング、決めつけをしている状態です。まずは「ラベル剥がし」をしましょう。
――ラベル剥がし、ですか?
長谷川先生:「私は親不孝だ」と悩む人に、「これまで親が喜んでくれたことは一度もありませんでしたか?」と聞くと、「月に1回は食事に連れて行く」「孫を連れて行くと喜んでくれた」など、親孝行をしてきた事実が次々と出てきます。
しかし、「あの一言余計だったかな……」と、一部の行き違いや失敗ばかりを思い返し、「私は親不孝だ」だと自分を責めてしまうのです。
大切なのは、自分が積み重ねてきた親孝行と、一部の失敗やすれ違いをしっかり分けて考えること。それが、バウンダリーを取り戻す最初のステップです。
そもそも、「お母さん、お父さんを傷つけてしまったかも」と悩むほど相手を思いやれる人は、決して親不孝ではありませんよ。まずは自分に貼ってしまった一方的な罪悪感のラベルを剥がし、自分の優しい気持ちを認めてみてください。
【書誌情報】
『しんどい人間関係に境界線をつくる 心地いいバウンダリー』
著者:長谷川俊雄
「頼まれると断れない」「相手の機嫌に振り回される」「自分ばかり我慢してしまう」――そんな人間関係の悩みは、バウンダリー(境界線)の乱れが原因かもしれません。
本書は、「からだ」「感情・意志」「責任」「時間」「お金」の5つの視点からバウンダリーをわかりやすく解説し、仕事や家庭で今日から実践できる具体的な対処法を紹介。「NO」と伝えるコツや適切な距離の取り方を身につけ、自分も相手も尊重しながら、安心・安全で心地よい人間関係を築くための一冊です。
【著者紹介】
長谷川俊雄(はせがわ・としお)
白梅学園大学名誉教授、社会福祉士、精神保健福祉士、NPO法人つながる会代表理事、social work lab MIRAI代表。
1981 年から横浜市役所の社会福祉職として現場で活動したのち、精神科クリニックのソーシャルワーカーに転職。その後、愛知県立大学での教員経験を経て、2009年に「NPO 法人つながる会」を設立。2010年から白梅学園大学に移り、教育・実践・政策提言に携わる。2023年に「social work lab MIRAI」を開設し、援助職支援や家族支援にも取り組む。「バウンダリー」についてのワークショップを各地で行っている
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