誤嚥性肺炎の予兆をいち早く知ってもらうための「のどフレイル」という考え方【長生きのど習慣】

【長崎大学大学院耳鼻咽喉科・頭頸部外科教授 熊井良彦】
「フレイル」という言葉をよく耳にするようになりましたが、「のどフレイル」という言葉はご存じでしょうか。日々、耳鼻咽喉科医として高齢者の誤嚥性肺炎に取り組む中で、「のどフレイル」への問題提起の重要性を痛感しています。

気づきにくい飲み込む力の低下

 私は長崎大学の耳鼻咽喉科・頭頸部外科で耳鼻咽喉科医として、高齢者の誤嚥性肺炎に取り組んでいます。誤嚥性肺炎とは、飲み込む力が衰える「嚥下機能の低下」によって起こる誤嚥が引き起こす肺炎のことです。昨今、この誤嚥による肺炎(誤嚥性肺炎)を起こす高齢者が増えています。

 その注意喚起を促し、早めに飲み込む力を鍛えてほしいと考えていますが、「のどフレイル」という言葉は学会で協議したばかりの新しい言葉なので、広くは知られていません。

 一方で、嚥下機能の低下は少しずつ、自覚のないまま進行するため、明確な診断基準が定めにくく、専門的な検査を実施できる医療機関への紹介や、適切な対策の提案が遅れてしまいます。そこで、よりわかりやすく知ってもらうために、「のどフレイル」という言葉を使い始めました。

 「フレイル」とは、加齢により心身が老い衰えた状態のことで、あくまで病気になっていない状態です。フレイルは、体重減少や筋力低下、疲れやすい、歩く速度が遅くなったなど身体的な変化だけを表すのではありません。やる気の低下、うつなどの精神的な変化、閉じこもりや一人暮らしなどの社会的な変化も含まれています。

 フレイル状態になると、病気にかかりやすくなったり、また、一旦病気になると、なかなか治りにくくなったりし、そして入院や寝たきり、要介護の状態に至ります。そうすると、生活の質も落ちてしまうので、早めの対策が重要です。

早期発見、早期介入がカギ

 嚥下機能の低下は、ノドの老化(特に筋運動機能と感覚機能)から起きます。意外かもしれませんが、ノドも何もしないと、年齢とともに衰えていくのです。ノドの老化から嚥下機能の低下が起き、やがて、誤嚥性肺炎を引き起こしますが、この誤嚥性肺炎はさまざまな病気を招きます。また、入院や寝たきりの高齢者は誤嚥を起こしやすく、誤嚥性肺炎を発症するリスクも高いのです。

 誤嚥性肺炎は急に発症するものではありません。嚥下機能の低下を知らせる予兆がいくつかあるのです。例えば、「最近ムセやすくなった」「食べ物や薬が飲み込みにくくなった」「声がかすれる」などです(詳しくは第4章を参照)。この状態のことを「のどフレイル」と呼ぶことにし、全身のフレイル状態と関連づけて対策を講じられるようにしました。ノドの老化は全身の老化につながるし、また、全身の老化はノドの老化を招きます。そのことに気づいてほしいと思います。

 これらの予兆を見逃すと、嚥下機能はさらに低下し、結果として嚥下障害に至り、誤嚥性肺炎を発症。入院や寝たきりによって、さらにノドが衰えるという負のスパイラルを招きます。ぜひ、ノドのちょっとした異変に敏感になりましょう。

 もともとフレイルという言葉には、本人や家族が早く気づき、ちゃんと対応すれば、フレイルの状態から悪化させずにすむ、適切な対応で改善が期待できる場合もあるという意味も込められています。一般的な意味でのフレイルを防ぐためには、「運動」「栄養」「人との交流」が大切で、特に運動では、足腰の強化が推進されます。でも、鍛えてほしいのは、ノドもしかり。

 日頃からノドに気をつけて鍛えれば、嚥下機能の低下は防げます。ぜひ、日々のトレーニングに足腰だけでなく、ノドも加えましょう。具体的な方法は第2章で、西山先生が解説されていますので、参照してみてください。

 「自分には関係ない」「まだまだ大丈夫」と思う方も多いかもしれませんが、何もしないと、ノドは歳とともに、少しずつ衰えていきます。いつまでも、口からおいしくご飯を食べたいですよね。食べる喜びは生きる喜びです。

【出典】『長生きのど習慣』著:西山耕一郎/熊井良彦

【著者プロフィール】
西山 耕一郎(にしやま・こういちろう)
北里大学医学部卒業後、横須賀市立市民病院に勤務。横浜赤十字病院(現・横浜みなと赤十字病院)耳鼻咽喉科副部長、国立横浜病院(現・横浜医療センター)耳鼻咽喉科医長、北里大学耳鼻咽喉科診療助教授を経て、2004年に西山耳鼻咽喉科医院を開業。東海大学客員教授。藤田医科大学客員教授。嚥下相談医。嚥下認定士。神奈川県嚥下キーパーソン。耳鼻咽喉科・頭頸部外科医師として、30年間で約1万人の嚥下障害患者の診療を行う。主な著書に『肺炎がいやなら、のどを鍛えなさい』(飛鳥新社)『のどを鍛えて肺炎を防ぐ!』(大洋図書)『誤嚥性肺炎で死にたくなければのど筋トレしなさい』(幻冬舎新書)。
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熊井 良彦(くまい・よしひこ)
長崎大学大学院耳鼻咽喉科・頭頸部外科教授。主な専門分野は聴覚障害、嚥下障害、音声障害。1999年に熊本大学を卒業し、熊本大学での准教授を経て、現職。長崎大学病院嚥下障害治療センター長、長崎大学病院頭頸部腫瘍センター長を併任する。

【書誌情報】
『長生きのど習慣』
著:西山耕一郎/熊井良彦


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