「吟醸酒の父」三浦仙三郎とは?広島を名酒処へと引き上げた技術革新【眠れなくなるほど面白い 図解 広島の話】

酒造りに不向きとされた広島を日本有数の酒処にした人物

広島を酒処に変えた三浦仙三郎

 東広島市西条は、兵庫の灘、京都の伏見と並ぶ「日本三大銘醸地」の1つとされます。

 西条酒の歴史は、戦国武将・島左近の曾孫である島六郎兵衛が、延宝3年(1675)に嘉登屋(現・白牡丹酒造)」の屋号で酒造業を営んだのが始まりとされています。しかし、江戸時代の西条酒は、現在のような全国的な名声はありませんでした。広島は、酒造りに不向きとされる「軟水」が多く、かつては品質が安定していなかったからです。軟水は、酒の発酵を促すミネラル分が少ないため、酵母の働きが弱まり、結果として腐造(発酵不良)のリスクが高まります。

 西条酒が、現代の「吟醸酒」へとつながる高い技術を確立し、全国的な名声を得たのは明治時代のことでした。安芸津の醸造家・三浦仙三郎が、あえて時間をかけてゆっくりと発酵させる「軟水醸造法」を確立。三浦は、この技術を独占することなく『改醸法実践録』として公開しました。これにより広島の酒質が大幅に向上し、明治40年(1907)の第1回清酒品評会では、灘や伏見の酒を抑えて西条酒が上位を独占。また、高い技術力を持つ広島杜氏が育成され、全国の蔵で技術指導を行うことで、広島の酒は全国的に有名になっていきました。なお、広島では「八反」など独自の酒米品種の開発も盛んで、このことも広島の酒の質の高さにつながっています。

「吟醸酒の父」三浦仙三郎

吟醸酒を生んだ東広島

 三浦仙三郎が確立した「軟水醸造法」の技術的特徴は、「麹をしっかりと育てる」「低温でじっくりと仕込む」「温度・衛生管理を徹底する」というもの。この低温・長期醗酵技術は、華やかな香りと繊細な味わいを持つ「吟醸酒」造りの原点となりました。また、ほぼ同時期に東広島の精米機メーカー・佐竹製作所(現・サタケ)が動力型の「竪型精米機」を開発。西条の木村酒造(現・賀茂鶴酒造)がその精米機で磨いた米を使い、軟水醸造法を用いる酒造りを始めたことが、現在の吟醸酒造りの根幹となっています。こうした経緯から、三浦仙三郎は「吟醸酒の父」とも称されています。

【東広島市安芸津の今田酒造本店】
安芸津は三浦仙三郎が軟水で酒を造る技術を確立した地として知られ、「広島杜氏のふるさと」とも呼ばれる。

もう1つの酒処

「安芸の小京都」と称される竹原市も、江戸時代から製塩業とともに酒造業が発展した街で、現在も「竹原三蔵」(竹鶴酒造、藤井酒造、中尾酒造)と呼ばれる酒蔵が伝統を守り続けています。


【出典】『眠れなくなるほど面白い 図解 広島の話』監修:佐々木卓也

【監修者情報】
佐々木卓也(ささき・たくや)

野外歴史地理学研究家。第35回広島文化賞受賞(平成26年度)。昭和29(1954) 年8月1日、広島市佐伯区生まれ。間学苑:時空人論研究所主宰、ひろしま歴史街道トリップ実行委員会座長、広島地名研究会事務局代表、石垣を讃える会代表世話人、棚田学会会員(元監事)、広島市内公民館活動団体指導員、中国新聞文化センター専属講師。広島県立広島観音高等学校卒業、奈良大学文学部地理学科卒業、広島大学大学院文学研究科研究生終了、京都大学教養部人文地理学教室研修員修了。国立呉工業高等専門学校・国立広島商船高等専門学校・国立大島商船高等専門学校・広島修道大学短期大学部講師を歴任。広島県史編纂室第三部会委員・広島市教育委員会調査委員・奈良広島両県町村史編纂委員を歴任。主著『芸備両国の条里遺構』(溪水社)、共著『広島県地名大辞典』(角川書店)、『日本地名基礎辞典』(日本文芸社)、『日本石造文化事典』(朝倉書店)ほか。専門は歴史地理学・地域民俗学・文化人類学・日本地名学ほか。趣味は歴史街道散策・石垣景観探訪・旅行企画策定など。

【書誌情報】
『眠れなくなるほど面白い 図解 広島の話』
監修:佐々木卓也


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