昔は生で食べられなかった?湘南名物「生しらす」が幻の味から大人気になったワケ【眠れなくなるほど面白い 図解 神奈川の話】

江戸時代から続く伝統漁業「湘南しらす」

湘南のしらす漁の歴史

茅ヶ崎や鎌倉、江の島など湘南地域を代表する名物料理といえば「湘南しらす丼」です。湘南しらすはカタクチイワシの稚魚が主ですが、マイワシやウルメイワシの稚魚が混ざることもあります。

湘南地域におけるしらす漁は、江戸時代後期には定着していたといわれています。当時は現在の情な保存・運搬技術がなかったため、漁師以外には「生しらす」を食べる習慣がなく、釜揚げしたしらすを板状に天日干しにした「たたみいわし」が江の島の土産物として有名でした。

漁場となる相模湾には、相模川や酒匂川などから豊富な栄養分が流れ込むため良質のプランクトンが発生し、魚の生態系にも好影響を与えています。

また、相模湾は岸の近くから急激に海底が深くなるため、しらすが餌とするプランクトンを育む深層水が沿岸に湧き上がりやすいだけでなく、「黒潮」の暖かい海水が湾に流れ込むことで、さらにプランクトンが豊富になります。

その上、水深が深い相模湾は近場で漁ができるため、獲ってから水揚げまでの時間が短く、鮮度のよい「生しらす」として出荷できるという利点もあります。

湘南しらすは3月中旬から12月まで長い期間にわたって安定して漁が行えますが、特に4〜6月の「春しらす」と9〜11月の「秋しらす」が旬とされています。なお、「湘南しらす」はかながわブランドや神奈川の名産100選に選ばれています。

相模湾としらす丼

相模湾は日本屈指の「魚の宝庫」

相模湾は、富山湾、駿河湾と並ぶ「日本三大深湾」の1つとされます。「相模トラフ」と呼ばれる、海岸からすぐに水深が深くなる「急深」な地形をしているため、浅い海に棲む魚と深海魚が同じ湾内に共存しています。

また、日本全国で獲れる魚が約4000種確認されるうち、相模湾ではおよそ3割強にあたる約1300種もの魚が確認されており、日本屈指の「魚の宝庫」として知られています。

しらす丼の歴史

今や湘南名物として全国的に知られる「しらす丼」ですが、もともとは漁師のまかない飯だったといわれています。生のしらすは鮮度が落ちやすいため、かつては地元の人しか食べられない「幻の味」でした。

生しらす丼が湘南の名物として有名になったのは20世紀後半のこと。保存・運搬加工技術の向上により朝に水揚げしたしらすを、その日のうちに飲食店で提供できるようになり、1990年代にはガイドブックやテレビ番組などで紹介され一気に認知度が向上しました。

現在、特に人気なのが、生しらすの濃厚な味わいと釜揚げしらすの柔らかい食感が同時に味わえる「二色丼」です。

かつて、湘南のしらす漁は地引網が主流だった。現在はしらす船ひき網漁で行われているが、大量のしらすが獲れる「二艘引き」に比べ、魚へのダメージが少なく短時間で水揚げできる「一艘引き」で漁獲している。なお、地元では現在も観光用やイベントとして伝統的な地引網が体験できる。


【出典】『眠れなくなるほど面白い 図解 神奈川の話』監修:神奈川県立歴史博物館 館長 望月一樹

【監修者紹介】
望月 一樹(もちづき・かずき)
神奈川県立歴史博物館館長。昭和36年(1961)横須賀生まれ、鎌倉育ち。駒澤大学文学部歴史学科を卒業後、神奈川県史資料の整理作業に携わり、昭和63年(1988)に川崎市市民ミュージアムの歴史担当の学芸員、その後学芸室長となる。平成29年(2017)に横浜にあるシルク博物館の学芸担当課長、平成30年(2018)からは神奈川県立歴史博物館の学芸部長に就任し、令和3年(2021)から現職。学生時代は日本古代史を研究していたが、学芸員になってからは江戸時代を中心に川崎をフィールドとして調査研究を行っている。共著に『博物館の仕事』(岩田書院)など。また「律令制下における橘樹郡の様相」(『史叢』95号)や「ペリー来航時における川崎沿岸地域の様相」(『川崎市文化財調査集録』54集)など論文も多数。

【書誌情報】
『眠れなくなるほど面白い 図解 神奈川の話』
監修:神奈川県立歴史博物館 館長 望月一樹


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